8-2 昼食べる?
京真は水を飲んでいた。
時刻は正午。
小洒落た円形のテーブルに座り、女性二人に挟まれながら水を飲んでいた。
「うんうん。このカルボナーラ美味しいよ~」
「私のやつも美味しい。名前わかんないけど」
麻尋と透はパスタに舌鼓を打っていた。
彼女達の間で京真は一人、ちびちびと水を飲んでいる。
むしろ水以外を口にしていない。
京真は財布を持っていなかった。
なぜなら今日は修行だと思っていたからだ。
持っているのはタキアンACのライセンス。
つまりゲームのクレジットがチャージされたカードだけだ。
透に交通費はどうしたか聞かれた京真は走ってきたと答えた。
帰りも走る予定なのでそれは問題ない。
だが、昼食の事などすっかりと忘れていた。
二人がメニューを眺め始めた時に所持金が無いことを告げた。
すると驚くことに、麻尋が微笑みながらパスタを2つ注文したのだ。
「アンタは神か……!」
京真は麻尋の行動に感謝した。
だが、それは麻尋の策略だった。
「うんうん。こっちのボロネーゼも絶品だよ~」
「アンタは悪魔か!」
麻尋は京真に見せつけるようにして2皿を交互に食べる。
わざとらしく感想を言いながら京真の空腹を楽しんでいた。
それに対し京真の腹は降伏の声を上げる。
しかし京真にできるのは美味しそうに食す二人を眺める事だけ。
「どっちかと言えば小悪魔、かな?」
麻尋が動いた。
彼女はウインクをしてからカルボナーラをフォークに巻き付ける。
そして、一束巻き終えたところでそれを京真に差し出した。
「これが食べたかったら、赤ちゃんみたいにお口を開けてね~」
京真は目の前に差し出された餌によだれが出る。
だがしかし、ここで餌に飛びつくことは彼のプライドが許さない。
麻尋に好き放題言われ、思い通りに動きたくない。
そういった反骨精神が京真の中にはある。
ただ、それ以上に彼女に餌付けされるのが恥ずかしいという思いがあったのだ。
そんな恥ずかしい思いを公衆の面前でしたくはない。
京真はそんなプライドから麻尋の誘惑を耐え忍ぶ。
「ほら、あーん」
だが眼前にあるパスタは、乳白色のソースが輝いて見える。
鼻孔をくすぐる香りが嗅覚を支配してくる。
加えて緊張状態が続いたことで、京真の空腹は限界に近かった。
もう楽になりたい。
そんな思いが脳裏に駆け巡る。
プライドなど、もうどうでもいい。
いや、ここで折れたら麻尋の思う壺だ。
葛藤を続ける京真。
「あ、あ、あ……」
結局、京真は、
「超顔赤いじゃん!可愛い~!」
「屈辱だ……」
食欲に勝てなかった。
「じゃあ、あと透に任せるわ」
「なんで私!?」
第2ラウンドが始まろうとしていた。
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