7-3 恋人になる?

 麻尋は遅刻した。

 特に何があったわけでもない。

 道端でおばあさんを助けてもいないし、道路が渋滞してもいない。

 強いて言うならば、遅刻した方が良い気がしたのだ。


「うんうん。予定通りですな~」


 麻尋は集合時間に遅れていながらも急がない。

 むしろ遠巻きに親友を眺めるのに勤しんでいた。

 顔を背けながらも指の端っこだけを繋ぐ二人。

 見ているだけでにやけてしまう。

 時計を見るとすでに時刻は10時10分。

 5分以上も二人の様子を眺めていたことに麻尋は驚き、急いでその二人の元へと駆け寄った。


「ごめ~ん!熊に襲われちゃって~」


 麻尋は子供でも分かる適当な言い訳をして合流した。


「麻尋おはよう~!」

「おはよう透~。今日は一段と可愛いね~」


 透は麻尋に駆け寄った。

 その反応に麻尋はまたにやけてしまった。

 何故なら透の行動は、手を繋いでいるところを見られるのが恥ずかしくて、誤魔化すようにとった行動だからだ。

 透は麻尋に見られていた事に気が付いていない。

 そのため自身の行動の意図がバレていないと思っている。

 そんな滑稽な姿も麻尋から見れば可愛くて仕方が無かった。

 

 一方の透は自身の服装が褒められたことに喜んだ。

 そして気が付いた。

 麻尋がジーンズとTシャツというラフな格好をしていることに。

 それは透にとって衝撃的な事実だった。

 何故なら集まった3人の中で、自分だけが舞い上がって気合の入った服装をしているような気がしたからだ。

 透は恥ずかしくなってきた。

 服装の事だけではない。

 自分がいつの間にか京真を意識していること。

 それに対して京真は気にもかけていないという温度差。

 そして同い年である麻尋の大人の余裕。

 これらが一度に頭の中へと押し寄せてきたのだ。

 今更考えても仕方がない。

 透はそう割り切って今日を楽しむことに決めた。


「ありがとう、麻尋。じゃあ行こっか」


 透は麻尋の手を引いてショッピングモールに向かった。


 一方で京真は感心していた。

 麻尋が透の友人だとは知っていた。

 とはいえ実にスムーズな会話だと感じたのだ。

 遅刻の弁解、挨拶、服装の感想。

 実に見事なその流れを自身の言動と比較して反省した。

 やはり素直に褒めるべきだった。

 あまりにも可憐な透の姿に言葉を失った自分を悔やんだ。

 それと同時に透に惹かれている自分の単純さに悲しくなった。

 透は自分をただの恋人役としか思っていない。

 それなのに自分は意識しすぎて手すら碌に握れない。

 京真はそんなもどかしさを抱きながら、二人の後をゆっくりと追った。

 

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