7-2 恋人になる?

 京真は歩いていた。

 先ほどまでは走って移動していた。

 しかし、駅前に近づくにつれスピードを落とした。

 呼吸を整え、体温を下げ、汗が零れていないか確認した。

 これから人に会うのだ。

 それもこれからの人生を左右するかもしれない人だ。

 失礼があってはいけない。

 京真は予定の10分前に着くように逆算して家を出た。

 トレーニングがてら走って駅に向かった。

 そして着いたのだ。

 彼女の元へ。


「後鳥羽!今日から俺は弟子ってことでいいんだよな!」


 失礼だった。

 昨夜脳内でシミュレーションしていた内容がすべて吹き飛んだ。

 その上で弟子になりたいという欲が真っ先に出てしまったのだ。

 本来であれば、まずは挨拶。

 次に服装を褒めて、そして雑談をする。

 雑談の流れから弟子にしてくれるかを聞くつもりだった。


 だが、予定は全て崩れた。

 透の紺色のワンピース姿に見惚れてしまったのだ。

 普段の制服姿とは違う雰囲気の透を見て、京真の時は止まった。

 一瞬の思考停止。

 それは永遠の時の間に京真の意識を置き去りにした。

 それにより、どこまで話したか分からなくなった京真は、いきなり弟子入りの話を持ち出してしまったのである。

 

「弟子になるには条件があるの」


 いきなりの宣告。

 透の口にする条件をクリアすれば弟子になることができる。

 逆に言えば条件を達成できない場合、弟子入りは不可能。

 ならば京真の選択は一つしかなかった。


「何だ!」


「私の……、こ、恋人役に、なれ、なさい……ください?」

 

「分かった!」


 透が緊張のあまり、もの凄く嚙んだ。

 しかし、京真はそのことに気が付かなかった。

 何故なら京真もまた、緊張していたのだ。


 恋人役になれという条件。

 弟子になるために了承するしかない状況。

 この二つの間には、一つの問題があった。

 京真は、恋愛を経験したことがない、という問題だ。

 しかし、その事が透にバレれば恋人役に不適任の烙印が押され、弟子入りの話は立ち消えてしまうかもしれない。

 つまり、透に恋愛初心者だとバレてはいけない。

 京真は瞬時にその考えに辿りついた。

 そして、緊張しながらも余裕を見せつけるため即答したのだった。

 

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