第1章
7-1 恋人になる?
透は待っていた。
10時に駅前で集合。
それが麻尋との約束だった。
透は万全を期して、9時40分にコンビニの横にスタンバイした。
透にとって土曜日に外に出るのは久しぶりだった。
加えて買ったばかりのゲームもやらずにというのは珍しい。
本当ならば今すぐ家に帰って続きをプレイしたい。
だが、麻尋との約束は絶対なのだ。
何故なら彼女が無二の親友だから。
だけではない。
彼女が透の弱みを握っているからだ。
アレをばらす。
その一言で透は身震いする。
その6文字の中に隠したいはずの言葉、『アレス』がすでに顔を覗かせているのだ。
アレスの正体が麻尋であるという秘密を知らなければ何でもない言葉だ。
だがしかし、透にとっては非常に有効な脅し文句になっている。
「早く来すぎたかな……」
10分ほど一人で過ごし、ボソッと呟きながら疲れた足をたたんでしゃがみ込んだ時、見覚えのある人影が透の視界に映り込んだ。
その長身と1本に結んだ長い髪が特徴の男。
そして、今日から透の弟子となる男である。
その名は千堂京真。
透のクラスメイトである。
「後鳥羽!今日から俺は弟子ってことでいいんだよな!」
開口一番それだった。
透は唖然とした。
挨拶がないとか、自分の服装を褒めてくれないという思いもあるが、それ以上に京真自身の服装に衝撃を受けたからだ。
京真は下半身はジャージ、上半身は長袖のTシャツという非常にラフ、というかスポーティな格好で現れた。
何故だ。
透は考える。
今日は麻尋も含めた3人で買い物をする予定のはず。
それなのに、どうして運動に適した格好をしているのか。
答えは単純。
麻尋が伝えていないから。
透が弟子を取る。
明日、10時に駅前集合。
京真はその2点しか聞かされていない。
もちろん、京真が弟子になるための条件も聞いていないのだ。
透はこの場で、その条件を伝えることにした。
それは普通の女の子への憧れから来る願い。
恋愛を経験したいという透の望み。
「弟子になるには条件があるの」
「何だ!」
「私の……、こ、恋人役に、なれ、なさい……ください?」
「分かった!」
即答だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます