6-1 倒したい奴?

「ざーこっ」

「誰が雑魚じゃあ!」

 

 耳元で囁かれた言葉に反応して京真がテーブルから勢いよく顔を上げると、すぐ目の前には麻尋の微笑む顔があった。


「うわあ!」


 周囲の状況もつかめないままに近すぎる距離にいた麻尋に驚いた京真は、だらしない悲鳴を上げながらソファの背に飛び退いた。


「かわいい~」

「からかうな!」

「ごめんごめん。ついね~」


 京真の対面の席に移動していた麻尋は軽く謝る。

 その表情は楽し気で、反省の気持ちは微塵も見られない。


「で、戻っていい?」

「ダメ」

「え~」


 麻尋は自分の意志で席を移動したのではない。

 透に怒られ、渋々席を変えたのだ。

 それは麻尋が京真で遊びすぎるのが原因である。

 おかげで京真が気を失い、全く話が進んでいないのだ。


「なんで弟子になりたいの」


 透は本題について切り出した。

 これは京真を弟子とするかどうかの最終面接なのだ。


「それは俺が最強になりたいからだ」

「何の?」

「VWO。VRMMOの頂点だ」

「何のために?」


 それまで素早い返答をしていた京真の言葉が止まった。

 そして、一つ息を吸い込んでから再び話し始めた。


「俺にはどうしても倒したい奴がいるんだ」

「どうしても倒したい奴?」


 それは京真にとって因縁の相手であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る