5-1 弟子を取る?

「弟子取れ」

「え˝」


 透は潰れたカエルのような声を出していた。

 場所は駅前のファミレス。

 透と麻尋はそこで話し合いの場を設けていた。

 ドリンクバーから自分と親友の飲み物を運んできた透は、麻尋の言葉に動揺してグラスをひっくり返しそうになった。


「麻尋、私の話ちゃんと聞いてた?」

「厳正なる審理の結果、透氏は弟子を取る運びとなりました」

「不当判決だ!」


 透がそう言って拒否反応を示すのには3つの理由があった。

 一つ目は、他人である麻尋に決める権利はないから。

 二つ目は、VWOをプレイしていることを隠したいから。

 三つ目は、弟子を取るメリットがないから。

 これらの理由がある限り透は弟子など取るつもりはない。

 対して、昨日の出来事をあらかた聞き出した麻尋は改めて確認する。


「でも京真君は透の彼氏じゃないんでしょ~?」

「うん」

「昨日はデートじゃないんでしょ~?」

「う、うん」


 麻尋は先ほど透のデートの定義が間違っていることを知った。

 そして呆れながらも透に間違いを指摘したのだ。

 それを聞いた透の表情は目まぐるしく変化した。

 困惑、悲嘆、羞恥。

 終いには不貞腐れてストローを齧っていた。

 今はそのストローを口元から離し、麻尋の質問に答えている。


「じゃあ弟子取っちゃいなよ」

「なんでそうなるの。それに私、VMOやってるの隠したいんだけど」

「共通の趣味ってやつでしょ?良い事だよ」

「なんでそんなに弟子取らせたいのさ」

「共通の知人を通して良い男を捕まえたい」

「結局自分のためか!」


 透は言った言葉は正解である。

 当初麻尋は、京真が透の恋人であると思っていた。

 だからこそ透に協力しようと考えていたのだ。

 そうして二人の仲を深め、いじり甲斐のあるおもちゃを増やそうと画策していた。

 しかし、実際は京真は透の恋人ではなかった。

 それどころかデートもしていないし、連絡先も交換していない。

 ほとんどただの同級生である。

 だったら高身長イケメンを自分が狙ってもいいのではないか。

 当初の予定通り、高校生になって美少女へと生まれ変わった透を餌に、近づいて来た男子を捕まえる作戦を決行してもいいのではないか。

 麻尋はそう思い始めていたのだ。


「とにかく弟子は取らないから!」


 しかし透の意志は固い。

 力強く宣言した透はポテトを口の中へ乱暴に放り込む。

 絶対にノーを出し続ける。

 そういう覚悟を持って休みなくポテトを食べ続けていた。


 だが、透には弱点があった。


「アレ、ばらすよ?」


 麻尋は透の秘密を握っているのだ。


「うう……」


 両頬をポテトでパンパンに膨らませた透は、麻尋の一言に撃沈した。


「決まりね」


 それだけ言うと麻尋は急に電話を始めた。

 その2分後、透は京真と向かい合っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る