4-2 かわいそう?
京真は頭を下げていた。
授業の合間や昼休みなど、時間を見つけては透のもとまで赴き、頭を下げていた。
それは透の弟子にしてもらうため。
対する透には弟子を取るという意思が微塵も無さそうだ。
だが、その程度で京真が諦めることは無い。
まずは誠意を見せる事。
そう思って時間が許す限り透に頭を下げるのだ。
強くなるためならプライドなんて必要なかった。
そして放課後を迎え、同じように透に頭を下げるため席を発つ京真。
だが、透のもとにいち早く辿り着いたのは京真ではなかった。
「許してあげなよ、透ちゃん」
「そうだぜ、名字で呼んだくらいで」
「かわいそうだよ。あんなに頭下げてるのに……」
「印象悪く見えるよ、透さん」
透のもとを訪れたのはクラスメイト達だった。
クラスメイトは透の席を取り囲むと口々に京真を擁護する。
完全に透の方が悪者になっていた。
透は想定外の事態に焦りながらも弁明を始める。
「ち、違うって!あれは昨日一緒にゲームした時――」
「嘘!?透、私に黙って京真君と二人でゲームしてたの!?」
麻尋の乱入により事態はさらに混乱する。
「それは、何て言うか……、たまたま……、というか、偶然……、すごい確率で、その……」
偶然VWOの予約戦争を勝ち残ったクラスメイト二人が、同じタイミングで同じ店舗を利用したという奇跡的な確率と透は言いたかった。
しかし、透はVWOを買ったという事実を隠そうとしている。
そのため上手く説明ができず口籠ったのだ。
「それはつまり、『運命』って事ですな」
「う、う、運命!?」
透は乙女だった。
最近になって女の子らしいものに目覚めた透は、運命という言葉の響きに大いに動揺し、興奮したのだ。
結果としてろくに否定することもできず、ただ赤面するのみだった。
そして、それを見たクラスメイトは思う。
(これは、黒だな)
「それでデートしたと」
「それは、その……、デート、かな……?」
透はやんわりと肯定した。
だが、大いに間違っている点がある。
透はそもそもデートの定義を間違っているのだ。
放課後にクラスメイトとたまたま同じ時間に、たまたま同じ場所で、たまたま同じものを買うことを人は放課後デートとは言わない。
だが、恋愛常識の浅い透はそれをデートと識別しているのだ。
これは大きな間違いだが、この場にはそれに気が付く人間がいなかった。
「つまりこれは若き二人の夫婦喧嘩」
「め、夫婦だなんてそんな、まだ早いよ……!」
満更でもない表情を浮かべる透。
それを生暖かい目で見守るクラスメイト。
なぜ人だかりがあるのかも分からず、蚊帳の外のまま頭を下げる京真。
「だったらこの私、恋のキューピッド皆越麻尋に任せなさい」
そして親友の面白そうな話題にノリノリの麻尋。
何もかもが噛み合っていなかった。
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