2-2 初デート?

 千堂京真は走っていた。

 自転車を追い越し、自動車を抜き去っていた。

 バスに乗るためではない。

 目的地である家電量販店に向かうのに最適な方法が、自分の足だということを知っていたからだ。

 最強になるために毎朝ランニングを続けている。

 この程度の距離なら軽いものだ。

 それに京真には、走ってでも早く手に入れたいものがあった。

 VWOヴィジョンワークス・オンラインである。


 京真はこのVRMMOゲームの世界で最強になること目標にしているのだ。

 フルダイブ型のゲームは肉体を動かすイメージがそのまま反映される。

 そのため京真は、日々の鍛錬で肉体の強化に励んでいる。

 だが逆に、イメージさえあれば体を動かすのが苦手な人でもゲーム内を自由自在に動き回ることができる、というのもフルダイブ型の魅力の一つである。


「フゥ……、着いたな」


 巨大な建物を前にして立ち止まり、腰に手を置いた。

 首元がじんわりと汗ばんだが、気温が高くなかったおかげで、それほど汗はかいていない。

バタバタとワイシャツの胸元を扇ぎながら店内に進む。

 エスカレーターで4階まで上がり、レジで商品を受け取り会計を済ませた。

 これで今日から最強への戦いが始まる。

 京真がしみじみと喜びを噛み締めていた時、視線の先に見覚えのある人影を見た。


「ふっふふーん、ふーんふーんふーん、ふっふーん」


 エスカレーターを上りきるなり、上機嫌な鼻歌とスキップでレジに並んだ制服姿の少女。

 見間違うはずがない。

 教室で京真に蹴りを加えたあの女。

 後鳥羽透だ。


「おい、後鳥羽」


 会計の列に近づき話しかけてみるが、目を輝かせて引換券を眺める透は自分の世界に入っており、全く聞こえていないようだった。


「仕方ねえな」


 京真は話しかけるのを諦め、エスカレーターの前へ移動した。

 会計を終えた透が来るであろうその場所で、ご機嫌な鼻歌が聞こえるのを待つことにしたのだ。


「待ってたぜ、後鳥羽透!」


 そして、その時が来た。

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