2-1 初デート?
後鳥羽透は走っていた。
頬を伝う汗も崩れる前髪も気にせず走っていた。
全てはバスに乗るためだ。
目的地である大型家電量販店に向かうバスに乗るには、学校から最も近いバス停ではなく、少し遠いバス停を利用する必要があった。
バス停まで走ればギリギリ発車に間に合う。
1本逃せば次に来るのは30分後。
透はそれを待てるほど心に余裕が持てなかった。
何故なら今日は、透が待ち望んだフルダイブ型VRMMOゲーム『ヴィジョンワークス・オンライン』、通称VWOの発売日なのだ。
「ハァ……ハァ……」
何とかバスに間に合い、空いている席に座って息を整えた。
大分落ち着いてきたところでポケットから大切な紙切れを取り出し、目を輝かせて印刷された文字を眺める。
予約商品引換券。
文字通り、これは今日発売されるVWOの引換券である。
世界的な人気を誇るゲーム、『
そして透は、この紙を拾い上げた男の事を思い出した。
「おい後鳥羽、お前も――」
そこで喉を潰したのは続きを言えないようにだった。
紙の文字を読んだ男はVWOの話をするだろう。
透はVWOを購入することをどうしても周囲に隠したかったのだ。
故に最短最速の策として暴力行為に走った。
念のため耳元で、「喋ったら殺す」と念押しもしておいた。
これで問題ないだろう。
殴ったことは明日謝ればいい。
そう思っていた。
だが、透は大事な事に気が付いていなかった。
「待ってたぜ、後鳥羽透!」
会計を済ませ、ホクホク顔で鼻歌交じりにエスカレーターに向かう透の前に立ちはだかったのは、VWOの箱を小脇に抱えた千堂京真だった。
彼もまた、予約争いを勝ち残った戦士だったのだ。
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