1-5 ヤバい奴?
ホームルームの後、千堂京真は男子生徒に囲まれていた。
下校時間まであと少し。
その時間で千堂を部活に勧誘していたのだ。
「千堂、良い筋肉だな!野球やろうぜ!」
「この長髪で野球は無理だろ。サッカー部に入れよ」
「この長身を生かすならバスケに決まりっしょ」
「最強を目指すなら柔道部に来い」
「速さこそ力だ。一緒に風になろう千堂」
しかし腕を組んだ京真が頷くことは無かった。
「悪いな。もうやることは決めてんだ」
そしてチャイムが鳴る。
「見学だけでも来ないか千堂」
「悪い。今日は行くとこがあるんだ」
そう言って教室を出ようとする。
その時、前を歩く少女のポケットから何かが落ちた。
紙だ。
空中に舞うそれを地面に着く前に掴む。
そこに書かれている文字を見て驚いた。
「おい後鳥羽、お前も――」
後鳥羽透。
京真は彼女をただのクラスメイトの女子生徒と思っていた。
だが、それは間違いだ。
透の素早い上段蹴りが千堂の喉を襲った。
言いかけた言葉が潰される。
仰け反った上体に追撃のボディーブロー。
今度は体が前方に傾く。
その隙に透は、京真の手から紙を奪い返し逃走した。
一瞬の出来事だった。
クラスの誰もが呆気にとられていた。
京真もその一人だった。
息をするのを思い出すようにざわめきが帰ってきた。
「何だよ今の……」
「カッケー、透ちゃん」
「名字で呼んだらああなるのかな?」
「マジかよ!?俺も呼んでみようかな……」
中には京真に話しかけるものもいた。
「大丈夫か千堂」
「千堂君、怒らせるようなこと言ったのかい?」
「今の蹴り、速くて見えなかった」
「最強になるんじゃなかったのか。女に負けちまって」
心配する者もいれば煽る者もいる。
京真は気を取り直して教室の外へと向かった。
「俺には見えたぜ」
歩きながら京真が口に出す。
それを聞いて教室には笑いが起こった。
「何が見えたんだよ。負ける未来か?」
生徒の一人がニヤニヤしながら京真をいじるが本人は気にする素振りも見せない。
それどころか流し目で彼にひとつの情報を言い残した。
「ピンクの水玉模様だった」
京真は歓声の湧き上がる教室を後にした。
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