1-4 ヤバい奴?

「いや~、透が勉強教えてって泣きついてきた時は驚いたな~」


 麻尋はぐちゃぐちゃになった透の黒髪を手櫛で整えながる。

 それと同時に椅子に座る透の背中を見つめ、数か月前の光景を思い返した。


「いいじゃん麻尋、昔の事は忘れようよ」

「いや、忘れないよ」


 素早い返答。

 透の背後に立つ麻尋は両手で透の頬を掴み、上から覗き込むように視線を合わせて目を見開いた。


 教室の男子生徒は入学初日から美少女二人が、今にもキスでもしようかというその距離感に色めき立った。

 だが、そんな展開にはならない。


「小学生から一緒にいたけど透があんなに馬鹿だとは思わなかった。自分の合格は余裕だったけど、透が合格できるか最後まで不安でずっと胃が痛かったし」

「ご、ごめんなさい……」


 透は麻尋には頭が上がらない。


「それにいきなり普通の女の子らしくなりたいとか言い出して、服装に髪型、話し方とか座り方、何から何まで教えないといけなかったし」

「それは絶対誰にも言わないで……!」


 加えて麻尋は透の弱みを握っているのだ。


「だったらとっととイイ男を紹介しなさい」

「目が、怖いです、麻尋さん……」


 チャイムが鳴る。

 その音でやっとメデューサのような麻尋の視線から透は逃れることができた。


「鐘が鳴ったら帰っていいんだよね?」

「先生がそう言ってたね~。どっか遊びに行っちゃう?」


 その質問に透は首を横に振った。


「今日はどうしても行かなきゃいけないところがあるから」

「そっか~。じゃあまた明日ね~」


 互いに手を振り、透は急いで教室を出ようとした。

 その時、上着のポケットから1枚の紙切れが落ちた。

 それに気付いた透が振り返るより早く、紙を拾い上げた男がいた。

 千堂京真だ。


「おい後鳥羽、お前も――」


 言い切るより早く、透の蹴りが京真の喉を襲った。

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