1-2 ヤバい奴?

「俺の名前は千堂京真だ」


 教室内がざわめいた。

 京真のビジュアル面について話をする女子生徒もいたが、むしろそれはマイノリティ。少数派である。

 ほとんどの生徒は、今朝校門前に現れた不審人物についての話をしている。

 何やら最強になると豪語する男がいたらしい。

 そしてそれが京真ではないかという憶測である。


「俺はここで最強になるぜ!誰にも負けるつもりはねえ!」


 憶測が確信に変わった瞬間である。

 だが、意外にもクラス内の反応は暖かいものだった。

 まばらながらも拍手があり、「がんばれよー」という適当な声援もあった。

 一方で否定的な反応を示す者もいた。


「最強って、馬鹿じゃないの」


 誰にも聞こえないように透は小さく呟いた。


「馬鹿というよりもガキね。自分の実力も世界の実力も知らないからそんな事が言えるのよ。そうやって自己満足に浸って井戸の中で溺れ死んじゃえばいいわ」


「おい、後鳥羽。もうお前の番だぞ?」


「えっ?あっ、はい!」


 担任に呼ばれ、上ずった声で返事をする。

 京真の言葉にイライラしていたらいつの間にやら順番が回っていたようだ。

 透は慌てて立ち上がり周りを見渡すと、全員の視線が透に向けられていた。

 

 一度深く息を吸う。

 今日は透にとっても大切な日。

 事前に考えていたセリフを思い出し、気合を入れて話し始めた。


「ご、後鳥羽透です。自分の名字が好きじゃないので、名前で呼んでください。よろしくお願いします」


 大きな拍手が巻き起こった。

 雰囲気のいいクラスだったがそれだけが理由ではない。

 透の可愛らしい見た目のおかげだ。


 背は普通よりも少し低いくらいで、小動物のような可愛らしい表情をしており、小さな顔を包む黒いミディアムヘアは毛先がふんわりと膨らんで肩にかかっている。

 胸は控えめだがそこがまた彼女の魅力とも言えるだろう。


 そんな彼女の仕草と言葉に男子諸君は心を奪われそうになる。

 拍手の中に「透ちゃーん」と歓声をあげる者もいた。

 彼女の言葉を聞くまでは。


「気安く話しかけないでくれる?」


 先ほどまでの良い雰囲気はどこへやら。

 教室中が静まり返ってしまった。


 透はゆっくりと椅子に座る。

 そして両手で顔を覆うと心の中で叫ぶのだった。


 うわああああああ!!!!

 やっちゃったああああああああ!!!!

 昔の癖でつい言っちゃったよおおおおおお!!!!

 入学初日からヤバい奴だって思われれちゃうよおおおお!!!!


などと透は深く後悔したが、


「もっと罵倒してくれー!」


 別のヤバい奴のおかげで透は事なきを得た。

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