第21話
僕と勇者を乗せた馬が軽快な音を立てて進んでいく。
「ご主人さまはどこまで戦えるかしら!?」
「……ご主人さま?」
勇者の僕の呼び方に対して首を傾げる。
なんでご主人さま呼びを僕はされているの?
「え?良いでしょ?あなたは既に私のご主人さまじゃない。……今すぐに私をボコボコに叩いてくれていいのよ?あっ。鎧と服を出して私を全裸にでもする?」
さっきまでの真面目くさった勇者の顔はどこへやら。
「はぁ……はぁ……はぁ……私のことを見つめる男たちの貪るのような欲望の眼差しッ!そ、想像しただけでぇ……」
頬を真っ赤に染めて息を荒らげる変態の顔となっていた。普通にドンの引きである。
本当に大丈夫かな?この勇者……。
「そのゴミを見るような視線……!たまらない!」
勇者は馬に乗ったまま器用にも体をくぬくぬさせる。
「さて、と。それでこれからなのだけど」
そして、ひとしきりくねくねした後。
勇者は真面目くさった表情に戻り、こちらへと視線を向けてくる。
「あなたはどのくらいの強さを持っているかしら?」
「一人で人間も魔族も滅ぼせるレベル」
「……っ」
僕の言葉に対して勇者は表情を引きつらせ、息を飲む。
「なるほど……でも、魔族は全滅させてくれないのね」
「まぁね」
僕は勇者の言葉に頷く。
「……わかったわ……人間に危害を加えない範囲で好きにしてちょうだい」
今代の勇者は歴代の勇者に多く見られた傾向である正義感の強い人間から外れ……この世の中のどうしようもなさを受け入れ、冷静に考えることができる人間だった。
「善処するよ」
「えぇ。任せたわよ」
僕の言葉を聞いて勇者は笑みをもらす。
「そういえば私の名前、言っていなかったわね。私はマキナ。あなたは?」
「僕はそうだね……アンノウンとでも呼んでよ」
「……わかったわ」
僕と勇者、マキナは馬車の上で遅すぎる簡単な自己紹介を行う。
そんなことを僕と勇者がしている間にも馬車は進んでいき……そして、地獄が見えてくる。
「……ッ!こ、これ……は」
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