第19話

「うーん……」

 

 僕は勇者とレイオの激しい戦いをぼーっと眺めながら、意識を別のところに向けていた。

 

 勇者とレイオの戦い。

 圧倒的勇者なまでに勇者優勢だった。

 レイオも巧みに槍を操り、うまく立ち回っているけど……それでも全然足りない。

 必死に食らいついては要るものの……勇者にその穂先は届いていなかった。

 勇者は余裕な立ち回りで終始レイオを相手に有利に戦いを進めていた。


「おぉー!!!」


「流石は勇者様だ!」


「いけー!!!」


「くっ……レイオ様……」


「忌々しい勇者め……ッ!」


「頑張ってください……!!!」

 

 まぁ……こんな戦いはどうでも良い。

 どうせ勝敗は決まっているのだ。

 何の興味もない。

 重要なのはここじゃない。


 食い破られ、魔族に侵攻されている右翼での戦闘の方が重要だった。

 

 そこではレインとレルが戦っている。

 彼女たちがピンチだったら僕が助けてあげないといけないだろう。みんなに死なれちゃうと悲しいし。


「終わりよ」

 

 勇者が発動した大魔法。

 戦いながら地面に描いていた魔法陣を使って強力な魔法を発動させる。

 その効果は相手の時を一瞬止めるという圧倒的チート能力。


「……ァ?」

 

 止まっていた時間は本当に一瞬。

 しかし、その一瞬は十分すぎた。勇者の振るう剣がレイオの首を容易く斬り落として見せた。


「ふぅー」

 

 勇者がほっと一息つき、地を払ってから剣を鞘に収める。


「勇者様ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 レイオとの戦闘を終えた勇者の元に焦った様子の男が一人近づいてくる。


「大変ですッ!!!」

 

「ど、どうしたの?」


 激しく息を切らして叫ぶ男を前に、勇者は少しだけ動揺を見せる。


「右翼がッ……!右翼がッ……!右翼が……ッ!」


「何?右翼がどうしたの?何かあったの?」


「右翼が突破されましたッ!被害は甚大!穴は続々と広げられ、食い破られ……最前線基地も陥落間近ッ!!!今、お二人が戦っておられますが……それも時間の問題であるかと!」


「なんですって!?」

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