第29話

「そろそろ潮時であるな……(じゃあ……そろそろ帰ろうか)」

 

 日が陰り始め、夕方となった頃。

 僕は梨々花に向かってそう話す。


「……うーん。そう、だね……もう時間だよね……」

 

 梨々花が寂しそうに言葉を告げる。

 そんな悲しそうに、寂しそうにしているんだったら……もっと一緒に遊んで上げたいんだけど……流石にそろそろ帰らないと行けないだろう。

 アレリーナが待っているだろう。

 

「もう少し……遊んでも構わぬが……帰りは転移故にすぐだろうから(もっと遊んでも良いんだけど……どうせ帰りは転移だからね)」


 僕は梨々花に向けてそう話す。

 ……まだ大丈夫だろう。少し遅くなってもアレリーナだって許してくれると思う。最悪、悪魔が強かったのだと言い訳しておけば良い。

 

「うん!じゃあ、遊ぼ!少しでも良いから遊びたいな!」

 

 僕の言葉に対して梨々花が嬉しそうな笑顔を見せる。

 

「うむ……良いだろう。せっかくの時ぞ。思う存分に楽しもうではないか(うん。じゃあ……そうしようか。せっかくだからね。一緒に楽しもう)」


「うん!そうだね!」

 

 梨々花はこれ以上無いくらいの笑顔を見せている。

 ……こんなに喜んでくれるなら僕も嬉しいな。

 

「そんなに我との逢瀬が楽しいのであれば、またすれば良いだろう(ふふふ。じゃあ……また一緒にデートしようね?)」

 

「……」

 

「……?」

 

 僕の言葉に対して梨々花は沈黙する。

 ……あれ?僕ってば何か変なこと言ったかな?


「ほらっ!行こ!時間は有限だよ!」

  

 梨々花はこれ以上ないくらいに笑みを浮かべて歩き出す。


「うむ……(うん。そうしようか)」

 

 僕は梨々花の言葉に頷いて、歩き出した。

 街の中を。

 僕と梨々花のデートは延長線に入ったのだった。




「今日しかないよ、ふたりきりは……私は絶対に離さない。例えゴミが居ても」

 

 

 

 ……?

 僕は梨々花の一言を聞いて首をかしげる。

 梨々花の一言。

 何故かノイズが入っていて、良く聞こえなかった。……あれ?僕ってば聴力には自信があったんだけど……。

 ちなみに、視力、嗅覚、触覚……全ての五感が優れているという自信はある。味覚は知らない。

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