第21話

「……え?」

 

 僕が示した先。


「ひっ」


 そこには震えている少女の姿があった。

 梨々花が男を叩きのめしたのを見て、悲鳴を上げて体を震わせた……という面もあるのだが、元から、ここに来る前からその少女は自らの体を震わせていた。

 恐らく……今、震えている少女が昔アルベトに虐められていた少女なのだろう。

 だからこそ、少女は僕を前にして震えているのだろう。来る前からなので、少女は僕の前に姿を表したいわけではなかったのだろう。

 少女からは恐怖の感情と……逃げたいと気持ちが見て取れる。


「我が前に立つことはそれが望んだことか……?記憶もない我が前に立って何をしたいのだ……?それを怖がらせてまでしたいことでもあるのか……?(あなたの後ろに立っている少女はこれ以上ないまでに恐怖してますよ?彼女にそんな感情を抱かせてまで何で記憶もない僕の前に立つのですか?)」


「……っ」

 

 僕の言葉を聞いて男は息を飲む。

 この男は正義感の強い男なのだろう。


「……お、お前のッ!暴走を、止めるために、俺は……ッ!」

 

「汝のような劣等種ごときが我に対してどのような感情を抱こうが構わぬ……しかし、自らとともに歩む物を粗末に使うのはいただけぬな(別に君が僕のことをどう思っても良いですが……隣を歩いてくれる少女を粗末に扱ってはいけませんよ?)」

 

「……お、お前に……」


「劣等種と言えども汝は鳥よりも脳があるだろう?少しは記憶を保持したらどうだ?……我は記憶がないと何度言えばわかる……?我への対処はあの女がやるのだろう?貴様がどんな立場の人間なのかは知らないが……自らの国の王女のことくらい信用したらどうだ……?(それにです。何度も言っていますが、僕は記憶を持っていません。今の僕に何を言っても無駄ですよ……?)」


「か、帰ろ……?」

 

 そして少女がか細い声を上げて、男の方へと告げる。


「クソがッ!覚えていろよッ!」

 

 男はどこかの雑魚役のような言葉を吐き捨て、この部屋から立ち去っていた。






 あとがき

 別にアルべトくんは鈍感なわけではなく……ただただ『恋愛』を知らないだけ。

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