第20話

「な、な、な……何者なんだッ!?お前は……ッ!!!」

 

 瞳に涙を浮かべた男が梨々花に対して疑問を投げかける。


「うるさいし……別に私が何者であってもあなたには何の関係もない……お兄に対してあなたが何かをしない限り」

 

 なんとか怒りを抑えたらしい梨々花が再び椅子へと座る。


「あ、兄?」

 

 梨々花の言葉に対して男が首を傾げる。


「……何を言っているのだッ!?その男に兄など居ないッ!なんと忌々しいことをッ!こんないたたけな少女を洗脳するとは……ッ」


 男は殺意のこもった視線をこちらにぶつけてくる。

 

「目を覚ますんだッ!彼は君の兄なん」


「ァ?」

 

 梨々花が座ったまま一言。


「ヒィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」

 

 それに対して男が恐怖の声を浮かべて、瞳に涙を浮かべる。

 ……そんなに怯えているのであれば最初から神経を逆撫でするような声を上げるなよ。


「し、しゅ……しか、し……だ、な」


 そんな中でも男は必死に何か、声を上げようとしている。


「……」

 

 しかし。


「……」

 

 梨々花に睨みつけられているせいで、男は完全に言葉を止めてしまう。

 ……なんかちょっと可哀想……。


「ふむ……(えーっと)」

 

 流石に僕が何か言った方が良いよね。


「汝は我について何も聞かされていないと……?(僕について何も聞かされていないのでしょうか?)」

 

「聞いているともッ!!!あの白々しい嘘ならなッ!!!」

 

 僕の言葉に対して男は怒りの声を上げる。

 おぉ!元気を取り戻した。


「ふむ……なるほど随分と面白い男であるな……何の目的であって我に近づいてくると言うのか……劣等種はまともに状況を理解することも出来ないのか(えぇ……それでもですか……。状況を少しでも良いから見てほしいのですが……)」


「何だと……ッ?」


「汝が何をしたいのかは知らぬが……まずは後ろで震えている劣等種の女にでも視線を向けたらどうだ?(まずは僕ではなく、自身の後ろで震えている少女のことを見るべきだと思いますよ)」

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