第9話

「……こうして他のものにも目を向けてみると……久しぶりに見るものが多いわ」


 馬車の窓から景色を眺めていた梨々花がボソリと呟く。


「例えば?」


「草、虫、馬、雲……まぁ、色々ね」

 

「え?」

 

 僕は梨々花の答えに驚く。


「そこら辺って見ないの……?地球の技術ってそんなに進歩したの?」


「えぇ……そうね。全ての自然現象は人類が掌握したわね。草とか虫とか動物とか、人間以外の生命体は全て絶滅させたわね。人間が生きるのを支えていた益虫などの役割は全てロボットに取って代わられたしね。お兄が居たときに問題になっていた環境問題も技術で解決したから既に草などの自然も全て要らない……。人類は人類以外の生命全ての力を借りずとも生きられるようになったのよ……細菌とかでさえ、人工物だからね」


「えぇ……そこまで進んでいるんだ。食べ物とかは?」


「そこら辺も全て培養ね」


「はー……凄いね。人類は。……ペットとかはどうなったの?」


「ペットタイプのロボットに駆逐されたわね。……手間がかかる生き物のペットよりも、ロボットのペットの方が人気になったのよ」


「あぁ……動物愛護団体は?」


「そこらへんの人たちは圧倒的少数派になっちゃったのよね。致命的だったのは世界規模の大パンデミック……動物を原因とするコロナを超える大パンデミックが起きてから、動物は絶滅させるべきッ!!!って人が増えちゃって。動物愛護団体は最終的に人殺しだと罵られたり……誹謗中傷の嵐。動物愛護団体にいるってだけで、会社を首になったり、就職出来なかったり……なんてこともあって完全に駆逐されたのよ……」


「ほーん。そんなことがあったんだ」

 

 動物愛護団体が人殺しと罵られるか……過激派のヴィーガンとかが暴れていたり……とかを見ているから、結構驚きだね。 


「既に地球は完全に人類の手の中。……気候も、地震も……何もかも。地球は水でなく、光と鉄の惑星になったのよ」


「へぇー」

 

 人類の進化って凄いな……。


「何もわからないわ……」

 

 僕と梨々花の会話を聞いていたアレリーナがボソリと呟く。

 まぁ……それはそうだろう。逆にわかったら怖いよ。


「あ。……もうすぐ着くわよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る