第29話

 アルベトがトイレで離席している……三人だけが残された部屋。

 そこには地獄が広がっていた。


「ふふふ……どういうことでしょうか?」

 

 部屋の中心で堂々と椅子に座っているレインが威圧感たっぷりと告げた。


「私は不用意にアンノウン様に近づくなと言いましたよね?」


「だから?……あなたには感謝しているわ。だからと言ってペコペコするつもりはないわ


「ふふふ。いい度胸ね。死にたいのかしら?」

 

 レインから膨大な魔力が溢れ出す。

 その力は魔族ですら瞬殺したレルを持ってしても勝てないと思わせるだけの強さを持っていた。

 それであってもレルは余裕そうな態度を崩そうとはしなかった。


「出来るのかしら?私の防具はアンノウン君お手製……あなたに傷をつけられるの?」

 

 絶対の自信とともに放たれるレルの言葉。


「くっ……」


 それに対してレインは何も言い返せない。

 事実だからだ。

 アルベトを絶対とし、アルベトのものであれば排泄物ですら聖物として崇められる彼女がアルベトの作ったものに傷をつけられるはずがなかった。 

 レインは沈黙し……それに対するレルは得意げな表情だ。


 レルは理解している。自分が挑戦者であることを。

 だからこそ……二人を蹴り落とそうとはしない。確実にアルベトの元へと近づくことを重要視している。

 恋愛ゲームにおいては圧倒的に優位であるレイン……しかし、他人と関わらせたくないばかりに彼女は追い詰められていた。

 

 そもそもアルベトは愛を知っていても、恋を知らないので、恋愛ゲームなど起こっていないに等しいのだけど。

 アルベトにとっての好きか、普通か、嫌いか。

 その判断基準に性別は入ってこない。

 異性的な……恋としての基準は絶対に入り込んでこない。 


 二人の膠着状態。

 それを打ち破るかのように……。


「セッ◯スもしていないのに粋がるな。パパの素顔も見たこと無いのに粋がるな」


 今まで沈黙を保ち続けていたニーナがボソリと呟いた。


「「ファ!?」」


 大爆弾だった。

 ツ◯◯◯◯◯◯◯クラスの大爆弾、水素爆弾だ。


「あ……」


「んご……んごッ」

 

 ニーナは二人にいきなり致命傷を与えていった。

 アルベトが一番好きなのはレイン。だけれでもアルベトを一番知っているのはニーナだった。


 ガチャリ


 ニーナの爆弾。

 投げ込まれた爆弾が起動したタイミングでアルベトが戻ってくる。

 三人の……アルベトの意識外で行われる戦いは……珍しく武力なしで平和に終わった。

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