第8話

 既に落ちていた陽の光は……その頭を表し始める。

 そんな陽の光を遮り、暗闇を作り上げるのは一つの魔法だった。

 何もない質素な部屋であり、隙間風も容赦なく吹き荒れるようなボロボロの部屋であるにも関わらずこの場を支配しているのは暖かな空気。

 冷たい風など少しもない。

 地面の床は何故か硬くなく、布団のように柔らかかった。


「……酷いものだね」

 

 僕は自分の膝の上に眠っているニーナの頭を撫でながらぼそりと呟く。


「んぅ……」

 

 ニーナの口から寝息が漏れ、無邪気な寝顔を晒す。


「……本当に酷いね」

 

 ここは……孤児院。

 スラム街に存在している小さな建物。

 そこに暮らしているのは小さな少年、少女たちが全部で21名。

 一番下は5歳で一番上はニーナで15歳。

 ここに暮らしているのはこれだけであり……大人の姿はない。

 ニーナがみんなが暮らせるよう、必死にお金を稼いできてなんとか生計をたてているんだそうだ。

 スラム街に住んでいる孤児などはスリに走ることが多いのだが……冒険者の多いこの街ではスリを行うこともできない。

 ニーナは色々な大人に良いようにこき使われながらも……犯罪に手を染めることもなく必死にお金を稼いできたんだそうだ。

 

 それでも全然お金はなく、暮らしていくための設備とかはほとんど何もないし、毎日口に出来る食べ物の量も少ない。

 病気で倒れていた男の子、アレンを治すための薬を買うことなんて出来やしない。

 

 一体……ニーナがどれだけ苦労してきたのか。僕には想像することも出来ない。

 その苦労は……決して15歳の少女がしていいような苦労ではないだろう。


「ふー」

 

 僕はゆっくりとニーナの頭を撫でてあげる。

 少しでも安心できるように。


「ふへへ」

 

 それに合わせてニーナの表情が緩む。

 ……ふふふ。やっぱり子供は可愛いな。

 妹の梨々花もすごく可愛かった。


「……感謝しろ、劣等種。汝らを我が庇護下においてやる(……安心して、これからは僕が守ってあげるから)」


「んふっ」

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