第33話

「よろしかったのでしょうか?第一王女殿下」


 帰宅していくアンノウンを見送っているレインに中央騎士団団長が一言声をかける。

 レインが怖くなるくらいに執着していたアンノウンを簡単に帰還させたことを中央騎士団団長は疑問に思ったのだ。


「えぇ……まだお迎えにあがる準備は出来ていませんから」


「お迎えにあがる、準備、ですか?」


「えぇ、そうです。私の、私とアンノウン様の愛の住居である王城へとアンノウン様を迎え入れるには邪魔虫が二匹ほど飛んでいますので」


「邪魔虫、ですか?」


「はい。私の父と兄ですよ」


「……ッ!」

 

 レインの何気ない一言に中央騎士団団長は驚き、腰の剣へと手をのばす。

 彼女の父と兄。

 それは……それはこの国の国王陛下と皇太子であった。


「それは一体どういうことでしょうか……返答次第では……」

 

 中央騎士団団長は強い言葉と視線をレインへと向ける。


「そのままの意味ですよ……あなたは憂いていたはずです。だらけ、腐敗しきり、己の欲望のままに動く二匹を。アレイスター帝国の伸長も含め、これからの世界で王国が生き残れるか、を」


「……っ」


「私ならば必ず守れます。私の優秀さはこの短期間であなたも十分知ったでしょう?」

 

 レインの言葉に中央騎士団団長は沈黙する。彼女の言葉はすべて事実だった。腐敗しきっている国王陛下に、中央騎士団団長並びに騎士団が猜疑の心を向けていたのは紛れもない事実だ。

 そして、既に中央騎士団団長は国王陛下と皇太子を見限っていた。

 だからこそ……中央騎士団団長は戸惑う。

 彼女の優秀さを中央騎士団団長はまざまざと見せつけられていた。

 

「ご安心を。すぐに終わります。あなたが動く必要もありません。すべて簡単に終わります。あなたの守るべき王国民は何の被害も受けることはありません」

 

 中央騎士団団長の不安。

 それはレインを王として良いのかということ。

 底知れぬ恐怖を中央騎士団団長はレインへと抱いていた。アンノウンが世界を望めば……そのまま世界ですら滅ぼしてしまいそうな、そんな予感。

 そんな恐怖を中央騎士団団長は抱いていた。


「……」


 中央騎士団団長は沈黙する。


「ふふふ。沈黙は肯定とみなします」

 

 そんな中、レインが美しい笑みを浮かべる。


「アンノウン様をもう二度と見逃さないような魔道具をこっそりと渡して置きました」

 

 レインは笑い続ける。


「ふふふ。……あなたに私のすべてを捧げます……もうすぐです」

  

 レインは祈る。アンノウンへと。

 その様はこの世界の何よりも美しかった……。

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