第26話

「ふむ。され、汝は何を望む?(ご注文はなんでしょうか?)」

 

 僕はお客さんへと視線を向ける。


「……む?(あれ?)」


 首を傾げる。僕は見覚えのある人がいて。

 なんかちょっと地味になっているとはいえ、間違いない。

 あのときに僕が助けたドレスを破られていた少女であろう。


「あのときの劣等種ではないか。息災か?(あぁ、あのときの人じゃないですか。お久しぶりです。お元気でしたか?)


「……」

 

 僕はいつもの傲慢不遜ボイスで少女に話しかける。

 それに対して目の前の少女は沈黙している。

 ……やっぱり傲慢不遜ボイスはダメかもしれない……。


「はい!元気です。今日はたこ焼きというのを食べてみたくてですね」

 

 沈黙から一転して、少女は満面の笑みを浮かべて告げる。

 でも、何故だろうか。

 なんか目の前の少女に、目の前の少女の笑顔にそこはかとない恐怖を感じる。どうしようもないまでの恐怖を感じる。……どうしてだろうか?


「たこ焼きをお願いしてもよろしいでしょうか?数は他のお客さんと同じくらいでお願いします」


「よかろう。我が下賜してやるのだ。末代まで感謝すると良い(かしこまりました)」


「はい。もちろんです。……末代まで、ですね?」

 

 僕の言葉に対して目の前の少女は頷く。

 よくわからないが、なんとなくの恐怖を抱きつつもたこ焼きを焼いていく。

 たこ焼きピックで取って容器に入れておく。

 そして鉄板の横に置いてあるソースとマヨネーズをたこ焼きへと豪快にかけ、鰹節と青海苔を散らしていく。

 これでたこ焼き完成。

 ホクホクのたこ焼きだ。鰹節が元気に踊っている。

 久しぶりの邂逅なので、ソースもマヨネーズも鰹節も青海苔もちょっと多めにサービスしてあげた。


「受け取るが良い(はい。お待ちどおさま)」


「はい。ありがとうございます……ふふふ」

 

 少女はものすごい笑顔でたこ焼きを受け取る。


「して聞き忘れていたのだが、貴様の名はなんと言う?(そういえばあのときに聞き忘れていたのですが、お名前は何ていうのでしょうか?)」


「……っ!ふふふ、レインと申します」


「レインか。特別にこの我が貴様を名で呼んでやろう。感謝するが良いわ(レインさんですね)」


「……レイン……レイン。ふふふ」


「我のことはアンノウンと呼ぶが良い……くくく。我を名で呼ばせてもらえるのだ。しかと感謝せよ(私は今、アンノウンと名乗っています。アンノウンと呼んでください)」


「はい。わかりました。アンノウン様。それでは私はこの辺で。それでは、」 

 

 レインが僕の屋台から離れていった。







「みーつけた」





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