第25話

「……中々見つかりませんね……」

 

 イルミ王国第一王女レインが憂鬱とした表情で町中を歩いていた。

 彼女は今、王女らしからぬ庶民のような服装を身に纏い、目立たないような化粧を施し、髪も少し染めていた。

 地味になったとは言え、まだまだレインであると認識出来るような姿。

 それでも問題なくレインは街を散策出来ていた。


 王女である彼女の顔は庶民の間ではあまり広まっていない。

 テレビや新聞なんて無いこの時代において、王女である彼女の見た目を広く知れ渡らせるようなツールは存在しないのだ。

 そのため、庶民たちはあまり王女の顔を知らないのである。王都ならまだしも、王都から離れた公爵領であればなおのこと。

 なので、彼女はこうしてお忍びとしてバレることなく散策出来ているのであった。


「やはり……見つけるのは至難の……やはり私が……!」

 

 レインがぶつぶつと独り言を話していると、どこからか嗅ぎ慣れない美味しそうな匂いが漂ってくる。


「何でしょうか……?」

 

 初めて嗅ぐ匂いに興味をつられたレインは匂いのしている方向へと向かう。

 

「それで結局どうなったのよ!」


「それが……どうたらもつれちゃったみたいで……」


「あら、やだ。大変じゃない」


「そうなのよね。困ったわー」

 

「筋肉!筋肉!筋肉!」


「大胸筋!上腕筋!広背筋!」


「……あ?それで断れたん?」


「うん……小さすぎるって……」


「ハッハッハッハ!んなことあるのかよ!?それが理由で門前払いって嘘だろ!?生えてなかったんじゃなぇの!」

 

「酷い!」

 

 匂いがしてきた方向では多くの人が集まり、賑わっていた。

 

「すみません。これは一体何の集まりなんでしょうか?」

 

 レインは近くにいた適当なおばちゃんへと話しかけた。


「あら、カワイコちゃん。えっとね。これは最近話題になっているたこやき、という名前の料理の屋台なの。ぜひ美味しいからあなたも食べてみてちょうだい!」


「なるほど。……屋台飯ですか。それは少々興味深いですね。私も食べてみることにしましょう」

 

 レインもまた屋台の行列に並び、自分の番が来るのを待つ。

 なぜかはわからないが……底しれぬ歓喜と欲情を抱いて。


「ふむ。注文を言うが良いわ」

 

 そして、

 


「……え?」

 

 

 レインの時が止まる。

 

「ほ?」


 レインの目の前にいるのは簡素ながらも嵌められた宝石が輝く顔全体を覆う仮面に、実に見覚えのある高貴な服。

 傲慢不遜で威圧的な声……そう。

 レインの目の前にずっと探していた仮面の男がいたのだった……。

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