第19話

 『デビルフィッシュ』

 世界の多くの国でそう呼ばれ、忌み嫌われている水生生物。

 そんな生物……

 

 それがタコだ。

 

 日本では有史以前から食べられているほど歴史が古い食べ物であり、古墳時代の遺跡から、タコつぼと思われる土器が数多く発見されているほどだ。

 タコは消化率が高くて、動脈硬化を防ぎ血圧を下げるタウリンという成分が大量に含まれている生物だ。


 日本ではかなり馴染み深い生物ではあるけど、海外ではそうじゃない。


 ヨーロッパではイタリアやスペイン、ギリシャや南フランスなどの一部で食べられる以外は、食材として目にすることはほとんどなく、アジア圏でも日本以外だと韓国やタイくらいで食べられている程度である。

 

 世界はタコの見た目に対してあまり良い印象を抱いていない。

 それは例え世界が違っても同じなようだ。


「で、出た……!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!」

 

「くっ……な、なんて……なんておぞましい生物なんだッ!!!」 

 

 うねうねと動く巨大なタコを見て、周りの人間は悲鳴をあげている。

 うーん。

 巨大であることにビビるが……それでも色が暗い赤でつやがあり、実に美味しそうな見た目をしている。

 あれでたこ焼きとかタコの酢の物とかを作ったら実に美味しいのだろう。

 ……ただ一つ。

 実に美味しそうなタコではあるけど、一つだけ言いたいことがある。


「なんで浮いてんだ?……こいつ」

 

 空で気持ちよさそうにふよふよと浮いているタコを見て疑問に思った。

 海にいろよ。海に。

 日本の有史以来の歴史を持つ蛸壺が泣いているぞ。

 

「オイ!坊主!何突っ立っているんだ!すぐに陸上に降りてきやがるぞ!」

 

 ぼーっと突っ立っていた僕に男性が声をかけてくれる。

 ……こいつ、陸上にも問題なく上がってきやがるのかよ。


「くくく……貴様のような劣等種が我の心配とは、片腹痛い(いえ、ご心配ならさず)」

 

「なっ……!?」

 

 わざわざ心配して声をかけてくれた

 ……ごめんなさいね。本当に。


「そこで大人しく見ておるがよい!(すぐに討伐するのでお任せください)」

 

 僕は魔力を高め、魔法を発動する。

 発動する魔法は氷魔法。

 僕が発動させた強力な氷魔法は一瞬でタコを氷漬けにする。


「ふんっ」

 

 そして空間魔法を発動させて、アイテムボックスのような場所へと送る。

 これでいつでも好きなときにタコを食べる……!実は食料難なのだ!僕は……!


「なっ……なっ……なっ……」

 

 僕に話しかけてきた男性は驚きのあまり腰を抜かして倒れていた。

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