第9話

 アルベトの隠れ護衛のもとゆっくりと進んでいる馬車の中。

 そんな馬車の中にいるのは二人の女性。

 一人はまだ少女と言えるような年齢であり、美しい銀髪にアメジストのようなきれいな瞳を持ち、顔の整った可愛い少女。背は年相応であるものの、胸に関しては大人顔負けの大きさを持っている。

 もう一人は妖艶な雰囲気を纏った女性である。

 黒髪に赤色の瞳を持ったスタイルの良い美しい女性である。


「すみません。第一王女殿下。こんなことになってしまって……」

 

 ドレスを着た女性が目の前にいる同じくドレスを着た少女、第一王女に向かって頭を下げる。


「いえいえ気にしていませんよ。アイレンテ卿」

 

 それに対して第一王女が笑顔で告げた。

 

 イルミ王国。

 アルベトが生まれた国であるアレル帝国の隣国である王国。

 そこの国の第一王女である人が馬車に乗っている少女だ。

 そして、アイレンテ卿もイルミ王国の四大公爵家の一つであるアイレンテ公爵家の女当主だ。

 アルベトが助けた二人はイルミ王国でもかなり上位、最上位クラスに位置するほどの二人だったのである。


「ありがとうございます。……それにしても、あの男性は一体誰だったのでしょうか?」


「いえ……わかりません。名前すら教えてもらえなかったですから……」

 

 第一王女は仮面の男のことを思い出す。

 彼女は傾国の美少女と呼ばれるほどの美少女であり、今まで出会ってきた男性全員からは下衆たる瞳と、欲望に染まった声を向けられて育ってきた。


 それは彼女の心を蝕み続けてきていた。

 そして、それに止めを指すかのように下衆たる男たちに実際に襲われかけた。

 そんな中で現れてきた男性は、自分に欲望の染まった声どころか自分に一切興味ないと言わんばかりの声を向けてきた。

 彼女にとって初めて出会う自分を性の対象として見ることのない男性であった。


 彼女の目には傲慢不遜な仮面の怪しい男が、自分を助けてくれた紳士的な英雄のように映っていた。

 眼科に行くべきである。

 

「そうですね……あの男は一体……」


「わかりません。……アイレンテ卿」


「はい。何でしょうか?」


「黒髪の男性がこの国を出るのを禁止するような法律をお父様に作るように圧力をかけてください。それとこの森の探索をするようにも」


「は?」


 突然の第一王女の頼みにアイレンテ卿は疑問符を浮かべ、一瞬固まる。


「ふふふ。必ずあなたを私のものにしてみせます……」

 

 第一王女の顔には獲物を狙う狩人のような獰猛で、そして妖艶な笑みが浮かんでいた。

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