第16話、決戦


 フォーランス大森林には強力な魔獣が数多く生息ている。

 そしてレオドラ平原に出没する魔獣の中にフォーランスドラゴンというトカゲの様な見た目で頭から背中にかけて4本の長い角を生やしたドラゴンがいる。


 その角を削って作られる武器がガルレオン族の槍である。


 フォーランスドラゴンは大きいもので、体長10メートル程。しかしエドとボボが使っている槍は、昔彼等が仕留めた30メートル級のドラゴンから取れた物だ。この槍はとにかくでかくて太い。槍を持つ部分の直径は20センチ程もある。


 エリシア・フォリスとエド・ガルレオン、若い頃からジル隊に所属していた二人は魔獣討伐で目を見張る成果を上げた。

 他の隊の戦士からどちらが強いのか?とよく聞かれることがあった。

 木剣を使った寸止めの試合であれば先に一本を取って勝つのはエリシアだろう。だが真剣あり、魔法ありの殺し合いならば十中八九エドが勝つ。




 アテナ軍がゼムリア山脈側に展開し戦場に雪崩れ込む。これでガルレオン族の戦士に退路は無くなった。


 ヘルメスタは左の腰に差した剣に右手を掛けながらエド達の方へ歩き出しす。それを見たエド達もヘルメスタに向かって歩き出す。


 ヘルメスタは呟く。


「アテナは動かないようですね。こちらの主力はかなり減りました。うーん、ここはわたくしが殺りますかな」





 エド達とヘルメスタが対峙する。


「よう、おっさん!俺達の相手をしてくれよ?」


「獣におっさん呼ばわりされるとはね。貴方がリーダーですかな?」


「ああ、そうだぜ」


「なら直ぐに殺してあげますよ。…………ギア セカンド」


「やってみろよッ!ガッ!」


 ヘルメスタとエドが互いに駆け出しヘルメスタは剣を抜刀する。

 それは日本刀の様な形状だった。


 ギンッ! ギャンッ! ギンギンッ!


 ヘルメスタの刀とエドの太い槍が何度も交差しぶつかり合う。スピードではヘルメスタがパワーはエドがそれぞれ上回る。しかしエドは千視界で一寸先の斬撃が見える。スピードで勝るヘルメスタの斬撃はエドに当たらない、が。


 ――しかし、その時は訪れた。


 エドの渾身の突きをヘルメスタは前に出ながらかわし、カウンターでエドの首に斬撃を入れる。

 エドは千視界でそれが見えていた。

 だが、あえて躱さなかった。


「なッ!?」


 ヘルメスタが驚く。彼は斬撃の瞬間、エドの首を跳ねたと確信していたのだ。

 しかし刀は首の皮を切り裂き、そこで止まっていた。エドの肉までは切れなかった。


 エド間髪入れずヘルメスタの両腕を左手で掴む。

 出鱈目でたらめな握力で掴まれたヘルメスタはそれを解くことがてきない。そのままヘルメスタを持ち上げ、槍を手放した右の拳でヘルメスタの腹を殴る。


 ボスッ!


「ぐはッ」


 激しく魔力を帯びたエドの拳は岩をも砕く固さとパワーがある。その拳でエドは殴る。サンドバッグを殴るようにひたすら殴る。


「オラッ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!」


 ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!


 次にヘルメスタを掴んだ左手を振り回し、ヘルメスタを地面に叩きつける。続けて振り回し何度も叩きつける。


「ドラッ!」


 そして地面に叩きつけたヘルメスタを力の限り踏みつける。魔力込めて何度も何度も踏みつける。300キロの巨体から繰り出される激しく魔力を帯びた強力な蹴り。


「オラッ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!オラ!」


 ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!ボフッ!


 ヘルメスタは呟く。


「ギア サード」


 ヘルメスタは先程までとは別人ようなパワーで横に回転をしエドの左手の拘束を外す。そしてバックステップで後ろに下がった。


 エドは外された己の左手を見て不適に笑い呟く。


「おもしれぇ」




 エドが槍を拾った。


 ヘルメスタの軍服はボロボロになっていたが体は無傷だ。



「少々見謝っていましたな。獣の分際ぶんざいでなかなかやるではありませんか」


「そりゃどうも。殺してやるからとっとかかってこいよぉ?」


「……黙りなさい!下等生物ッ」


「早いッ」


 エリシアの『蒼翼』に匹敵する早さでエドの懐に飛び込んだヘルメスタは、エドの腹に横一線の斬撃を入れる。


「うおらぁあ!」


 エドは千視界で攻撃を読み、カウンターで蹴りを放っていたがヘルメスタはこれを躱す。


 一旦距離を取ったヘルメスタは刀を見た。


「刃が入りませんね」


 エドの腹筋には刀傷が走り、流血しているが傷は浅い。

 しかもその傷はみるみる塞がっていく。数秒で傷痕だけを残し完治した。


「不思議な体ですな?」


「俺から言わせりゃ、魔力を纏っていないお前らの方が不思議だぜ。エリシア、ボボ殺るぞ!」


「はい」「うっす」


 エド、ボボが纏う魔力が跳ね上がり、二人の筋肉が収縮し始めた。

 元の太さの3分の2程度まで体が細くなる。そして雰囲気が変わった。


「……不思議な体だ」


「驚くのはこれからだッ!オラッ!」


「ッ!?」


 エドが駆けヘルメスタに突きを放つ。

 その突きは先程までとは違いヘルメスタと同等の速さ。


 エドとボボ、二人の筋肉は小さくなったのではない。魔力で肉体を操作することによって筋肉が凝縮したのだ。


 ヘルメスタはギリギリでこれを躱す。


 ボボはエドの陰に隠れながら追走していた。千視界を発動しているボボには一寸先の未来が見えている。


 エドの後ろで既に構えていたボボの260センチ350キロの巨体がまるで柳の様にしなる。

 全身のバネと回転で槍のスピードを最大限まで引き上た必殺の一撃。


 エドが屈む。


「ガッッッッ!!!!」


 ボボが放った技はガルレオン流槍術奥義『投槍とうそう


 ヘルメスタはこの戦争が始まって初めて危険を感じた。全力で体を捻り、急所を避けたが僅かに槍がかすり、地面に叩きつけられる。

 槍は大地に激突し、地面がえぐれた。


 エドは倒れたヘルメスタに追撃する。


 飛び上がって落下からの『投槍』。


「ガッッッッ!!!!」


 ヘルメスタはこれを全力で躱す。ヘルメスタが倒れていた地面が吹き飛ぶ。


「ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!」


 尽かさず槍を拾ったボボがヘルメスタに連続の突きを放つ。スピードはヘルメスタに及ばないが、千視界の力で槍はヘルメスタにかすっている。

 そこに槍を拾ったエドも加わる。二人の卓越した連携がヘルメスタを追い詰める。


 ヘルメスタの刀も彼らを捕らえるが、傷を負い血が吹き出ても猛攻は一切止まらない。


「チッ」


 舌打ちしたヘルメスタはたまらず距離を取ろうとバックステップを踏んだ、その瞬間――。




 エリシアは二人の戦闘が始まってすぐに詠唱を始めていた。エド、ボボの魔力による強引な肉体強化はもって3分程度。その間に決着をつける。


「我に眠る風の精霊よ その力を解き放て

 ――蒼風 蒼霊弓あおのれいきゅう


 エリシアの左手に蒼い風が渦巻き弓の様な形を模す。その玄を右手で引いたエリシアはささやく。


「――蒼風 蒼羽々矢あおのはばや


 出現したのは糸のように細いを持ち矢尻と羽根に高圧の蒼い風が吹き荒れる矢である。

 全ての魔法の中で最もスピードと飛距離がある魔法。


 エリシアは狙いを定めその時を待つ。




 ヘルメスタがバックステップを踏んだ瞬間、脳天にもの凄い衝撃を受け吹き飛ぶ。

 エリシアが放ったライフル銃のような『蒼羽々矢』がヘルメスタの頭に直撃したのだ。


 倒れたヘルメスタにエドがラグビーのタックルのように突っ込み、両腕と両足を絡め絞め上げる。

 ヘルメスタは刀をエドの体に突き刺し抵抗するがエドは動じない。


「ボボッ!俺ごと貫けッッ!!」


「うっすッ!!」


 この状況で正義とはヘルメスタ・ジーケットを確実に仕留めること。例え家族や友、己の命を犠牲にしても。ボボはそう考えている。


 ボボは飛び上がり落下しながら構えた。『投槍 』の構えである。直撃すれば、直径20センチの大槍がヘルメスタを貫き、背後にいるエドまでも貫く。


 ボボは全力で魔力を纏いこれまでの人生で最大にして最強の一撃を放とうとしていた。覚悟の決まったボボに迷いはなかった。




 エドに拘束されたヘルメスタは叫ぶ。


「ギアッ!フォースッッッ!!!」



 ヘルメスタの刀によって切断されたエドの両腕が宙に舞った。


 ヘルメスタは軍服の上着の内側に左手を滑らせる。甲に『4』の刺青が入った手が握るのはハンドガン。それを落下するボボに向けて撃った。


 威力は凄まじく、銃弾は心臓を貫きボボの胸に拳ほどの穴が空く。





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