第15話 サゴ走る
ガルレオン族の後続部隊が撤退を始め、ある程度時間が経過した。
戦場は所々が魔法の残り火で燃えてる。燃えて黒こげになったガルレオン族や流血した人族軍の屍が至る所に転がっていた。
「ボボーっ!父さんっ!」
「サラサ、・・・師匠」
「おう!無事だったか!……やはり来てたか。エリシア」
「ええ、当然ですよっ」
「俺様の活躍で生き残れたぜ」
「いや、サゴ隊長は活躍してないよね」
「ぐぬぬっ」
「くっ、ははははははっ!なぁサゴ、エリシア!」
エドが急に笑い出す。
「んだよ?」
「ん、なんでしょうか?」
「こうして三人でレオドラ平原に立ってるとよ。皆でジル隊に入った頃を思い出すな」
「急になに言ってんだ」
「17歳くらいでしたか。もう30年以上も経ちますが今だにはっきりと覚えていますよ。ふふふ」
「ふん、今のレオドラ平原のありさまは最悪だけどな」
「……だな。もしベルダがいたらなんて言ったろうな」
「ベルダのことだから口よりも先に先陣を切って戦いに行きそうですね」
「あぁ、あいつは女の癖に手が早かったからな」
「ふっ、違いねー」
エドは目を細め人族軍の後続部隊を見つめる。
「大将のお出ましだな。やっぱりよ。俺達のレオドラ平原で好き勝手やられたら面白くないわな」
遠くの方で人族軍の後続部隊が割れてた。
「ええ、そうですね」
「ふんっ、俺が葬ってやるぜ」
両側に割れた人族軍後続部隊が揃って敬礼をする。その中を黒い軍服を着た長身の男が優雅に歩く。男の左手の甲には数字の『4』の刺青(いれずみ)がある。
人族軍最強の一角、ナンバー4ヘルメスタ・ジーケット大佐である。
ヘルメスタ・ジーケット大佐は見た目は50代前後で白髪の混じったオールバックの髪型、アテナと同様に無表情ではあるが、執事のような品性のある顔をしている。
彼は戦場を見渡す。
「やはり今回の遠征は不発でしたか。ロード・ラビ・メリア、いやリリエラの方ですかな。彼等ははなかなか優秀だ。情報というものをよく理解している」
彼は戦場の後方でずっと情報収集に追わていた。
「そろそろアテナの軍も到着しますな。さて、今回は残っているガルレオン族を一掃し終(しま)いというところでしょう」
この『レオドラ平原撤退戦』は獣族側と人族側で認識に大きな違いがあった。
獣族側はそもそも戦うつもりはなく、人族軍が到着するまでに、殿(しんがり)のガルレオン族も含め、ゼムリア山脈もしくはボーチ平原まで撤退している予定だった。
そこまで撤退できれば、兵糧や装備を準備していない人族軍は追ってこられない。
それに対して、人族側は農村で起きた獣族の暴行事件後、レオドラ平原に集結した獣族軍の残党、数十万人がロード・ラビ・メリアを担ぎ上げて王都メリアを奪還する計画を立てている、という情報を元に、獣族軍数十万との戦闘を想定し、最終的にはロードとリリエラを撃ち取る計画だった。
それでは、『獣族軍が王都メリアを奪還する計画を立てている』という偽(にせ)の情報を人族に流したのは誰か?
それはロードとリリエラである。
農村の事件後、スカル高地亡命を阻止するために直ぐに人族側に動かれては、33万人の移民を亡命させる時間がないと考えた彼等は、人族側に偽(いつわ)りの情報を流した。
人族側は当初、レオドラ平原からメリアに攻めてくるのであれば、中間地点で待ち構えていればよいと考え、そういう計画で軍を動かしていた。
しかし、獣族側にそのような兆候が見られなかった為、兵糧を集めレオドラ平原まで進軍した。
ロードとリリエラはこの情報操作で約2ヶ月近く時間を稼ぐことに成功していた。
ガルレオン族の後続部隊の撤退も進み、戦場では人族軍残り約4、5千とガルレオン族約3千が戦闘をしている。
戦場は獣族軍を中心に北にフォーランス大森林、西にヘルメスタ率いる人族軍、東にゼムリア山脈がある。
そして、南東の空から大きな歓声聞こえた。
エドは南東の地平線を見つめる。
そこにはアテナ率いる人族軍数万人の姿があった。
アテナの部隊は獣族軍がメリアに攻めてきた時のためにレオドラ平原とメリアの中間地点で駐留していた。しかし、人族側はレオドラ平原に潜む獣族軍数十万を潰す為にアテナの軍も別ルートで進軍させていたのだった。
この様な状況下でも戦場で生き残ったガルレオン族の兵達に怯えや焦りは見えない。それどころか薄く好戦的な笑みを浮かべる者もいるし、「これでもっと暴れられる」と呟く者もいる。
数千年も昔からガルレオン族はこのレオドラ平原という土地で戦いに明け暮れる日々を生きている種族であると、世界樹フォリスに記録が残っている。
エドは笑う。そして戦場の中心で叫んだ。
「ガァアアアアアアアアアアアアッ!!」
「「「「「ガァアアアアアアアアアアアアッ!!」」」」」
エドの叫びを聞いて戦場で生き残っているガルレオン族の戦士も叫び奮起した。
「ボボ」
エドがボボを睨んだ。
「……うっす。サラサ来てくれ」
「なによ?」
ボボは
「ちょっ、こんな時になんだよ」
サラサを抱く力が強くなる。
「くっ、ぐるしぃ……。ボボ……やめろ」
「お前ら、なにやって……」
サゴが止めに入るが、ボボの締めで頚動脈を圧迫されたサラサは意識を手放した。
「サゴ、頼みがある」
「…………断る!」
「サラサを担いで、この場から逃げてくれ」
「おらぁ逃げねーぞっ!」
「これは俺の我が
「…………」
「頼むよ。親友」
「てめぇは、死ぬ気だろぉがッ!」
「ははっ、いい歳して泣くなよサゴ」
「なんで俺はこんなに弱いんだよ。俺だってな……くっそ!」
「確かに強くないが、この状況でよ。逃げきれる足を持ってるのはサゴだけだろう?」
「ちきしょーッ!いいかエド!それにエリシア、ボボっ!ぜってー死ぬなよっ」
「ああ」「うっす」「ふふふ、当然です」
サゴはサラサを担ぎ走り出した。
昔から誰よりも逃げ足が早いと、ずっと
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