第14話 獣神エドと戦士ボボ


 レベル4の炎魔法『業火(ごうか) 炎獄(えんごく)』。


 それは上空から見下ろすと巨大なアメーバのような形で大地が真っ赤に燃える炎魔法。術者から半径約150メートルという広範囲の大地を灼熱の炎で燃やす故、この魔法が発動した時、逃げ遅れた者は焼かれて確実に死ぬと言われていた。


 その炎の上を平然と歩く二人の男がいた。


 前を歩く男は若い頃よりも体が大きくなり、身長は250センチ、体重約300キロ、分厚い筋肉に覆われた体は褐色の肌で赤い刺青が入っている。


 ガルレオン族の族長エド・ガルレオンである。


 彼は鬼神のごとき強さでガルレオン族の武術大会を12年連続優勝。全盛期はその強さから「エドの前にエドなく、エドの後にエドなし」と人々から称えられ、メリア王から『獣神(じゅうしん)』の称号を得た。


 そのエドの後ろを歩く男。エドよりもさらに一回り大きく身長は260センチ、体重は約350キロ、髪が長くイケメンなエドとは対照的で、角刈りの頭に傷だらけの岩のような顔、エドと同じく褐色の肌に赤い刺青をいれている。男の名はボボ・ガルレオンである。


 彼は4年前、最後の武術大会でエドとほぼ互角の戦いを見せた。戦争の影響で3年前から武術大会は開かれなくなったが、もし開かれていたら、毎年毎年、更に強くなって出場してきたこの男はどんな戦いを見せたのだろうか。


 そして、この男達が纏う魔力の量は通常の戦士の比ではない。

 『業火(ごうか) 炎獄(えんごく)』の灼熱の炎でさえもこの男達の魔力前では相殺されてしまう。


「ボボ熱いか?」


「うっす!」


「俺も熱い」


「うっす!」



 業火(ごうか) 炎獄(えんごく)の中を平然と歩き、目の前までやってきた二人を見て術者は足の力が抜けた。


「けけ け け 獣ごときがぁ あ、な、何で焼かれないんだぁ」


火族の術者の声は震えていた。


「俺達はレベル5が直撃しても、すぐには死なん。そういう鍛え方をしている。最後に言い残すことはあるか?」


「……おぉ お前ら、か、下等な獣は ブベッ」


 話しの途中でボボが術者の胸元に槍を突き刺した。


「容赦ねぇーな」


「親父、こっちも大分やられた。情けはいらない」


「そうだな。おっし、次行くぞ」


「うっす」


 こうして二人は次の獲物を狩りに行く。





 エリシア率いる巨鳩空戦団が加わったことで、各所で火族と戦い、火族に押されていた戦場が盛り返す。

 後続部隊は人族軍と戦い、人族の中にも猛者はいたが、基礎能力が高く集団戦闘に長けたガルレオン族が概ね人族軍を圧倒していた。



 エドの元に伝令兵が駆け寄り戦況を伝える。


「族長!最後の移民がゼムリア山脈に入りました」


「そうか。人族軍も大分減ってきた。俺達も段取り通り後続部隊から撤退を開始するぞ」


「応(おう)ッ!」


「撤退の指揮はジルさんに任せてある。撤退開始と伝えてくれ」


「わかりましたッ!」


 ゼムリア山脈に入れば道は険しく敵はすぐに追ってこれない。

 人族軍の数が減ってきたところで、物資運搬係りと負傷者を優先して、ガルレオン族の戦士達も撤退を始める。






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