第13話 千視界


 上空で蒼い風に包まれた瞬間――、エリシアはその場から消えた。


 エリオは顔をゆがめて叫ぶ。


「クソ雑魚がッあああああああああ!死ねよぉおおおおおおおお!!」


 九頭竜の蒼い炎がサゴを襲う。


「翠風(すいふう) 風壁(ふうへき)!!サゴッ無事ですかッ!?」


 サゴはニヤりと笑う。


「ああ、問題ねぇ」


 サゴとエリオの間に蒼風 翼で割って入ったエリシアは防御魔法を展開し、高圧の風の壁で九頭竜を防いだ。


「そんな魔法で僕の炎が防げるかぁああああああ!!」


 9匹の蒼い炎の大蛇が次々にエリシアとサゴを襲う。


「風壁ッ! 風壁ッ! 風壁ッ!」


 風の壁を追加で展開して、九頭竜を防ぐ。


「バァカなッ!?4連、だとッ!」


 サゴはエリシアが九頭竜を防いでいる隙に逃げて距離を取る。サゴの安全を確認するとエリシアも翼でその場から退避。



 サラサがエリシアへ駆け寄る。


「ねぇエリシア、どうしてここにいるのよ?」


「色々とありまして、開戦を予期できたので駆け付けました。私もサラサ達と一緒に戦いますよ!」


「ふぅー、さすがの俺も肝を冷やしたぜ」


「サゴ隊長、足が震えてる」


「う、うるせー。こらぁーな、武者震いだ」


「サゴ頑張りましたね。かっこ良かったですよ」


「槍外してたよね」


「バカっ!あれはなぁ、躱されたんだ」


「ふーん」


「サラサ、てんめぇー!」


「ふふふ、まぁまぁ。さて、厄介な相手ですね」


 三人は流血し腹を押さえながらも、いまだに九頭竜を展開しているエリオを睨む。



「そうね。あの炎で近付くことができない」


「私の蒼龍でも相殺できないでしょうね。相手の方が出力が上です。ですが……、手立てはありますよ」


 サラサとサゴはエリシアを見る。


「私の蒼龍であの炎を散らすことはできます。サラサ、千視界(せんしかい)で炎の揺らぎを捉え、炎に触れずに投槍を当てることはできますか?」


「…………できる」


 サラサは小さく頷き、エリシアは優しく微笑む。


「ふふふ。それではいきましょうか」


「ちぇっ、俺はもう少し離れとくぜ」


 サラサがエリオに向かって駆け出す。

 再び九頭竜がサラサを襲った。


「話し合いは終わったかい?あぁ痛い。こんなに血が出てるよ。お前ら全員殺すからなぁああああああああ!」


「ふんっ。やってみなさいよ!」


 エリシアは後方で詠唱を始めた。


「我に眠る風の精霊よ その力を解き放て

 ……蒼風 蒼龍」


 エリシアの回りに縦横無尽に暴れる巨大な蒼い竜巻が発生した。その先端は風の流れで龍の顔のように見える。

 龍の顔はエリシアの傍らにそっと佇み、エリシアは蒼龍を優しく撫でる。


「蒼風 龍牙(りゅうが)」


 エリシアは蒼龍を撫でた腕をエリオに向けて放った。蒼龍は地面すれすれに平行して飛びエリオに襲いかかる。


 エリオは一瞬驚いて見せるが、すぐに口角を吊り上げ不敵に笑った。


「風魔法のレベル5かい?ふっ、同じレベルなら僕ら火族の方が上。かき消してやる。……九頭竜ぅううううう!!」


 蒼龍と九頭竜がぶつかり、その衝撃でエリオが纏っている蒼い炎が揺らぐ。




 サラサはかつてないほどに集中していた。槍を持った右手は後ろに引いて、左手は敵前に掲げ目線と敵の間に指先を入れて狙いを定める。腰を低く落とし右足は後ろに引く。


 ガルレオン流槍術 奥義『投槍(とうそう)』の構えである。

 サラサの両目は物凄い量の魔力を帯びて、全身の筋肉も肥大化している。


 サラサには見えている。


 一寸先の未来が――。



 そしてその瞬間が訪れた。


 「ガッ!!!!」


 サラサが槍を投げる。


 触れただけで全てを灰にする超高熱の蒼い炎でエリオの姿は見えない。だが、槍が到達する瞬間、エリオの回り展開されていた蒼い炎が蒼龍で大きく揺らぎ、一瞬だけエリオの姿が視界にさらされた。


 サラサが放った槍はその刹那をとらえる。


 一瞬だけ生じた炎の隙間を通り抜け、槍はエリオの胸を貫通する。

 そして貫通した槍は、その先の蒼い炎に吸い込まれて灰になった。



 エリオは倒れ、蒼い炎が消えた。







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