第7話 ウィスター港海戦


 その後、人族と獣族は協議を重ねることになるが、双方妥協や和解はできなかった。


 人族側から要求を突きつけられた日から約3か月後、メリア王は人族対して徹底抗戦を国民へ発表した。


 ほとんどの獣族は当初この戦争を軽視していた。

 人族は魔法を使えたが、使用できるのはレベル1程度で重大なダメージを負うものではなかったし、近接戦闘では魔力で肉体を強化できる獣族が圧倒的に上だった。


 メリア王国で暮らしていた獣族は4種族。


 俊敏さに長けた兎のラビ族。

 パワーに長けた牛のカロヴァ族。

 トータル的に身体能力が高く知能に優れた犬のコーリ族。

 そして最強の獣族、獅子のガルレオン族。


 彼らにとって人族とは大人と子供くらい戦闘力に差があった。






 メリア王の宣言から半年後、港町ウィスターに人族の武装船団が訪れ、ウィスター向けて矢が放たれた。


『ウィスター港海戦』の始まりである。



 この戦(いくさ)で獣族は人族に大敗することになる。


 原因は――。


 先ず、人族側に火族が強力していたこと。


 これにより炎魔法で防衛線を破られ上陸を許してしまうことになった。


 それと、風族約3千人による巨鳩を使った空戦団も甚大な被害を受けた。

 風族の戦士はレベル3までの魔法しか扱えない者が多かったのに対して、火族はレベル4~5の魔法を扱える者が多かったことが決定的な戦力差となった。


 火族の強力な炎魔法が直撃し、空中で焼かれた風族と巨鳩が次々に海に落ち、その度に人族の船団からは歓声が上がった。この『ウィスター港海戦』では多くの風族と巨鳩の命が奪われることになる。



 次に、人族側にいた3人の怪物。


 アテナ・ウルク将軍。

 彼女は銀色の長い髪に身長は約170センチで黒い軍服を着ていた。身の丈程もある大剣を振り、とてつもない怪力でカロヴァ族を吹き飛ばし、圧倒的な早さでラビ族の首を跳ねた。そして大勢のガルレオン族が彼女に殺された。


 ヘルメスタ・ジーケット大佐。

 身長は約190センチでアテナと同じ軍服を着た細身の男。白髪の混じったオールバックの髪型で年齢は50代前後。遠くの敵に一瞬で穴を空ける謎の奇術と刀身の曲がった細い剣で戦っていた。身体能力はアテナと同等で獣族側は全く歯が立たなかった。また彼の奇術によって多くの風族の空戦団が落命した。


 謎の巨人。

 身長は約320センチ、上半身は裸、巨大な鉾を使う。身体能力は上記の二人と同等で、やはり同様にこの化物を止められる者はいなかった。


 アテナは首筋に『7』、ヘルメスタは左手の甲に『4』、巨人は背中大きく『11』の刺青(いれずみ)があったことから後に彼らはナンバーズと呼ばれる。



 この戦いは3日間続いたが、信じられないことにこの3人の怪物は昼夜全く休まずに戦った。そこに火族の加勢も加わることでとてつもない火力を発揮する。


 獣族と風族、それに地族の戦士も含む連合軍約5万は上陸した人族軍約3千人に敗北した。



 この戦で獣族連合軍は約半数の2万5千名が戦死。


 そして死者の中にエリシアの夫、フィリムもいた。

 フィリムはヘルメスタによって撃ち取られていた。






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