第6話 5通の手紙

【103年前ユーリアス大陸にて】




 エリシアが世界樹フォリスに帰還してから3年が経った。


 結婚したエリシアはフィリムとの間に女の子をもうける。子はフェリスと名付けられた。また、同じ時期にサラサも男の子を出産していた。

 そしてエリシアの祖父リリウスはエリシアがフォリスに帰還した時期に風族の族長に就任した。





 この日エリシアは村の集会所で月に一度開かれている魔法の研究会に参加していた。子供から老人まで実力に関係なく、魔法に関心が高い者達が集まり、この研究会を開いている。


 そしてこの研究会の中心にエリシアはいた。


 風魔法には7つの階級(レベル)がある。風族の魔法の歴史の中でレベル5以上の魔法は過去数千年の間で一度も再現することができなかった。だか、エリシアは僅か20歳でレベル5の蒼風を再現することに成功した。エリシアは数千年に一人というスケールで天才だった。


 風族に伝わる魔法の伝書、『風の魔法書』には下記のように記されている。

 レベル1剛風

 レベル2暴風

 レベル3烈風

 レベル4翠風

 レベル5蒼風

 レベル6天風

 レベル7大樹を薙倒す神の吐息


 伝書のルーツは古代風族文字で書かれた木版である。これは原初の風族、風の精霊エアリスが書き綴ったものだと伝えられている。

 それが数千年前に現在の風族語の語源になった言語で翻訳され羊皮紙に写本された。

 そしてエリシアの曾祖父の時代に現代の風族語で写本された書物が『風の魔法書』である。


 悠久の時の中で、劣化によって文字が消失したり、解読できない文字があったりして、この『風の魔法書』は風の精霊エアリスが記した内容の半分も写本できていない。故に風魔法には多くの謎がある。


 研究会では失われた魔法を再現する研究と既に再現された魔法を発動する訓練をおこなっていた。しかし理由は不明だが、未だにレベル5蒼風を発動できるのはエリシアだけだった。




 研究会の最中(さなか)、入口の扉が乱暴に開かれた。


「リリウス様ッ!族長は!?リリウス様はおられますかッ?」


「あぁ、ここにいるよ。メレリス何かあったのかい?」


 扉の前で大声でリリウスを呼んだのは、伝書交換局に務める女性メレリス・フォリスだった。

 伝書交換局とはユーリアス大陸の各地から飛ばされた伝書バトの最終到着地である。


「大変なことが起こりましたッ!とにかく手紙を、この手紙を見てくださいッ!」







 どこまでも続く快晴の大空を5羽のシロバトが飛ぶ。

 穏やかな風に乗った彼らは整った編隊組む。

 眼下には美しい街並みと活気に溢れたたくさんの人々が見えた。

 町を抜けると黄金の麦畑が広がる。

 ずっとずっと先には広大な平原が見える。


 この時期より1000年以上平和で穏やかだったユーリアス大陸が動乱の時代を向かえる。


 その第一報をフォリスに知らせたのは5羽のシロバト。

 王都メリアから送られた同じ内容の5通の手紙だった。



 『ブリトリーデン王国より使者参る。オルビット・アーク・フォンド・ブリトリーデン公爵、アテナ・ウルク将軍、ヘルメスタ・ジーケット大佐。メリア王に謁見。ブリトリーデン王よりメリア王に要求有り。1、メリア王国領土をブリトリーデン王国へ献上。2、獣族は人族に従僕。3、メリア王家及びメリア貴族及び議会の解散。以上の要求を1年以内に満たせない場合、ブリトリーデンは武力をもってこれを成す。メリア大使オルレイ・フォリス⑤』


 オルレイの手紙を読んだリリウスはすぐに言葉が出なかった。


「…………バカな」


「オルビット公と言えば現ブリトリーデン王国の第一王子ですね……」


「いや、そんな要求が通るわけがないですよ!」


 リリウスと一緒に手紙を読んだ者達から口々に有り得ないと言った言葉が飛び交った。


「お祖父様……、なぜこのような……」


「エリシア今日の研究会はこれで終わりだ。悪いが長老達を集めてくれ」


「はい」


 この日、風族民族会議が開かれ、風族は有事の際、全面的に獣族に強力する方針で纏まった。



 人族側が求めていたのはユーリアス大陸の肥沃な大地と獣族の労働力だった。


 人族の住むアトラス大陸はかつて小国同士が争う戦乱の世であったが約250年前、ブリトリーデン王国がアトラス大陸を統一し1つの国家となった。

 その後も内乱が続くことになるのだが、その首謀者だった各地の旧国の王や貴族の力も弱まり近年では平穏な情勢が続いていた。


 そして現代、人口増加に伴い食料不足が最も大きな問題となっていた。





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