第4話 ベルダの死



 エリシアがレオドラ平原に来てから6年が経とうとしていた。




 エドとベルダの家で、お腹を大きくしたベルダがベットに座り、エリシア、エド、サゴがそれを囲って楽しそうに会話をする。


「ベルダ、もうすぐですね」エリシア


「ああ、初めの出産だから、かなり恐いけどな」ベルダ


「けっ、女に生まれなくて良かったぜ。出産なんてごめんだな」サゴ


「なんだぁ~、あたしを心配をしてくれているのかぁ?」ベルダ


「なっ、な訳ねーだろ!」サゴ


「あぁ、くっそっ。俺が代わりに産んでやりたいくらいだ」エド


「なるほど……、と言うことは、おっさんのお産(・・・)ですね」エリシア


「「「…………」」」


「んっ?どうかしましたか?」エリシア


「あっ、いや。確かに俺はおっさんになってきたけど……、エリシアって変わったよな」エド


「そうでしょうか?」エリシア


「ははは、エドの言う通りだな。そう言えばフォリスに帰る日は決まったのか?」ベルダ


「まだ決まっていませんが、ベルダの出産が終わって、落ち着いたら帰ろうかと思っています」エリシア


「エリシアがいなくなると寂しくなるな」ベルダ


「大丈夫ですよ。たまに会いにきますから」エリシア


「エリシアも結婚かぁ。後はサゴだけだな」エド


「うるせぇ!俺は女なんかにゃ興味ねーんだよ」サゴ


「男にはあったりして」ベルダ


「なっ、なわきゃねーだろ!」サゴ


「この前、初めて話したけど、フィリムさんて優しそうな人だよな」エド


「ええ、とても素敵な方なんですよ」エリシア


「けど、エリシアより40も歳上なんだろ?あたし達じゃ考えられないな」ベルダ


「てことは、60くらいかぁ?ジジィじゃねーか!」サゴ


「ふふふ、風族は100歳くらいの歳の差で結婚することも珍しくないんですよ」エリシア


「100歳差ってすげーな」エド







 翌日。


 ベルダが破水し、出産はガルレオン族の女性達と協力して行われた。


「ベルダ頑張ってください!もう少しですよ」


「んー んーー」





「おぎゃ あんぎゃ」


「ベルダ、見てくださいっ!!元気な女の子ですよっ!!頑張りましたね。凄い!ベルダは本当に凄いです」


「あぁ……、あたしの赤ちゃんだ……。エリシア、ありがとう。……ありがとう」


 ベルダは赤子を抱きしめ穏やに微笑んだ。が、急に顔を歪めた。


「うっ……、ぐっ……ぐ……、あぁ痛い。痛いよ」


「ベルダ?ベルダっ!?ベルダぁ!?」


 産後、直ぐにベルダは苦しみ出した。


「だめだ。出血が止まらない」


「くそ。ベルダ気をしっかり持つんだよ」


 予期せぬ事態に産婆やガルレオンの女性達が取り乱す。


「んー……。痛い。ぐっ……、うっ」


「ベルダっ!」





 ベルダの容態は悪化し、数日後ベルダは息を引き取った。

 この時代、出産時の出血や感染症で産後に母体が命を落とすことは珍しくなかった。





 数週間後。


 エドの家で赤子を前にエリシアとエドが話す。

 エドはベルダの死後ずっと元気を無くしていた。


「なぁ、エリシア。この子の髪はどうして白いんだろうなぁ?俺達ガルレオンは皆、黄色い髪をしているのに……」


「私もこの白銀の髪が気になってお祖父様に手紙を出したら、お祖父様は先祖帰りじゃないか、と仰っていました」


「そうなのか。よく分からないな。……なぁ、エリシア。この子に名前を付けてくれないか?」


「ん?かまいませんが、私で良いのですか?」


「俺じゃ考えられなくて……」


「わかりました。少し考えさせてください」


「あぁ、悪いな」


「いえ」


 赤子が生まれてから、エリシアはエドの家に泊り込んで、赤子の世話をしていた。


 同時期に近所で男の子を出産した女性が乳母を名乗り出てくれた為、その女性とエリシアで赤子を育てている。




 次の日。


「エド、赤子の名前ですが、サラサというは如何でしょうか?」


「サラサ……。サラサ。いい響きだな」


「ふふふ。風族に伝わる神話で、風の精霊エアリスと共に戦った白銀の神獣の名前から取りました」


「そうか……、でもそんなに立派にならなくていいから、健康で長生きして欲しい」


「ええ、そうですね。あっ、あと、そうだ。私はまた暫くレオドラ平原で大使をすることになりましたよ」


「えっ?フォリスに帰って結婚するんじゃなかったのか?」


「……サラサのことを置いていけないですからね。この子が物心つくまではここにいますよ。フィリムもそうしてくれと言っていましたし」


「…………」


「ふふふ、大丈夫ですよ。私達風族は寿命が長いんです。数年なんてあっという間なんですよ」


「……わるいな。……ありがとう。……ありがとう、エリシア」


 こうしてエリシアはガルレオンの大使を務めながら、サラサの世話をすることになった。




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