第3話、馴初め


 エリシアがレオドラ平原に来てから3年が経った。



 彼女は早朝シロバトの世話をし、その後エド達と狩りに出て、帰宅後は手紙の精査や魔法の研究をする生活をおくっていた。


 この頃の時勢は平穏で、手紙は週に一度か二度届く程度、内容は何処かの貴族の冠婚葬祭や、王都でパーティーが開かれたとか、そんな内容が多かった。


 また、この頃からエリシアはウィスターの大使フィリムと文通をするようになっていた。




 今日もレオドラ平原のジル隊の持ち場でエリシア達は訓練をしている。


「なぁ、やろうぜサゴぉ~?」


「エド、もうお前とはやらねえよ!」


「なんだよ。つまんねぇーな」


「バカッ。お前が強過ぎなんだよ!千視界せんしかいとか反則もいいとこだぜ」


 千視界とは目に魔力を集中することで一寸先の未来が見える能力だ。ガルレオンの中でも選り優れた戦士だけが使用することができた。


 この世界の人々は魔力で肉体を強化することができる。

 特に獣族、さらにその中でもガルレオン族は魔力操作に優れた種族であった。


「あーもう、しつけーな。おいベルダっ!黙ってないで、こいつに言ってくれよ」


「ふんっ、おいエド!その辺にしときなよ。サゴは逃げ足だけは誰にも負けないが戦闘は弱いんだ」


「『逃げ』を付けるんじゃねー!お前から先に片付けるぞ」


「ふーん、弱いのは認めるんだ?やってみなよ。あたしの方があんたより強いけどね」


「ぐぬぬぬ」


 ガルレオン族は槍を使った槍術と素手で戦う武術を使う。


 彼らは5人から10人の小隊を作り持ち場で見張りをしてフォーランス大森林から魔獣が出現したら撃退する。


 倒した魔獣の肉や毛皮、骨は彼らの食料や他種族との物々交換にもちいられた。


 見張りは暇をすることもあり各小隊ごとに組手稽古等の訓練をしている。


 ガルレオン族は年に一度武術大会を開催しており、皆己の向上に努めていた。


「ならエリシアとやれよ」


「ん?私は構いませんよ?」


「いや無理だろ。エリシアは早すぎて俺の千視界でも捉えられないだよ」


「エドはエリシアに1度も勝ったことないもんなぁ」


「ベルダ……、くっそ。よし!エリシア相手を頼む」


「んだぁー?熱くなっちまってよぉ。ベルダに格好いいところでも見せたいのかぁ?」


「まぁ、そんなとこだな」


「ベルダ!顔赤くしてんじゃねぇよ」


「うっさいわね!」


「ふふふ。それではやりましょうか」


「最近、笑い方がリリウスさんに似てきたな」

 

 エドは木槍をエリシアは木の短剣を構えた。

 エリシアは魔法の詠唱を始める。


「我に眠る風の精霊よ その力を解き放て

 ――蒼風 蒼翼」


 エリシアの背後に蒼い風の翼が4枚出現した。周囲には暴風が吹き荒れ、エリシアの長い金色の三つ編みが激しく舞う。


「行きますよ」


 シュンッ!


「消えた!?はっ!懐に?」


 蒼翼は己に風の力を付与し、体の動きを早くする魔法。足や腕からジェットエンジンのように風が噴射し瞬間的に移動、攻撃できる。


 瞬間的な高速移動からの急制動。エドからはエリシアが消えたように見えた。

 気付けばエリシアはエドの懐に潜り腹に短剣を突き付けていた。


「はやっ!」


「こりゃ、一本だな」


「くぅー、だから無理って言ったろ」


「ふふふ」



「よしサゴ、今度はあたし達がやろう」


「あぁ?上等じゃねえか」



「はぁー、俺は型の練習でもするか……」


「ふふふ。エド、元気出してください」


 このジル隊はジル隊長を入れて5人。

 因みにジル隊長は木陰で昼寝をしている。





 その夜。


 コンコン

 玄関の扉が鳴った。


「エリシアいるか?」


 エリシアは玄関の扉を開ける。


「ベルダ。こんな時間にどうしたのですか?」


「ちょっと、相談したいことがあって」


「ん?まぁ、中に入ってください。お茶を入れますね」


「ああ、悪いな。こんな遅くに」




 二人はテーブルに着く。

 紅茶の入ったカップからは湯気が昇っている。


「そ、相談というか……、えっと、話を聞いてもらいたくてさ」


 紅茶をすすったベルダは頬を赤らめ恥ずかしそうに話し出す。いつもははっきり物事を言うベルダが今日に限って、珍しい態度だった。


「ふふふ、何でも聞きますよ。どうしましたか?」


「実は……、今日、皆と別れた後エドが家に来たんだ……」


「そうですか……。それで、なんの用事だったのですか?」


 ベルダは暫く沈黙するが、エリシアは優しくベルダの返答を待った。


「……プロポーズされた」


「良かったじゃないですか。ふふふ。ベルダもずっとエドのことが好きでしたし」


「なっ!気付いてたのか?」


「そりゃ見てれば分かりますよ。ふふふ」


「あたしの親も喜んでて……」


「ええ。良いと思いますよ」


「いいのかな、エドと結婚しても……」


「ええ、もちろんですよ。良かったですね。ベルダ」


「あたし凄く嬉しくて。どうしいいか分からなくて。エリシアに話しを聞いてもらいたくて」


「ええ、ええ、大丈夫ですよ。何でも話してください」


「エリシア……」


 この後、夜が更けるまで二人の話しは続いた。




 これより数ヶ月後、エドとベルダは結婚した。





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