第2話 少女と鳩
3ヶ月後。
バケツと
エリシアの金色の長い三つ編みが心地良い風で揺れる穏やかな朝。
エリシアが仕事を終え帰宅するとリリウスは朝食の準備をしていた。
「お祖父様、餌やりと
「お帰りエリシア。ご苦労様。もう少しで朝食ができるからね。あっ、そうだ。今日は手紙はあったかい?」
「はい。ウィスターからです」
ウィスターとは王都メリアの南西にある港町で人族と唯一交流がある町だ。
「ウィスターか。フィリム君の所だね。後で読んでみよう」
「はい!」
風族はシロバトという伝書鳩を使い手紙をやり取りする。
このレオドラ平原は風族が住む世界所フォリスとメリア王国の中間地点にある。
この村では、各都市からシロバトによって送られてきた手紙を別のシロバトに乗せ変え風族が暮らす世界樹フォリスへ送る作業をおこなっていた。
二人で朝の食卓を囲む。
「昨日、エド君の家から卵をいただいたからベーコンエッグにしてみたよ」
「わぁー、美味しいです」
「フフフ。良かった」
にっこりと優しく微笑むリリウス。
「今日もエド君達と狩りに行くのかい?」
「はい。行ってきます。そうだ!昨日エドとベルダとサゴがジルさんの隊に入れてもらったんです」
「ほぉう、ジルさんはベテランだね」
「はい!……それで、あの、私も同じ隊に入ってもよいでしょうか?」
「ふっ、ああ、もちろん構わないよ」
遠慮気味に尋ねるエリシアにリリウスは顔を綻ばせた。
承諾の言葉を聞いてエリシアの瞳が輝く。
「ありがとうございます。御祖父様(おじいさま)」
「だが無理はしちゃだめだよ。ジルさんの指示を良く聞くんだ。いいね?」
「はい!わかりました!」
エリシアは元気よく返事をすると朝食を頬張る。が、すぐに何を思い出し、慌てて口の中の物を飲み込んだ。
「そ、それで、また夜に魔法を教えてもらえませんか?」
「フフフ。構わないよ。私は後数ヶ月でフォリスに帰るからね。その間はできる限りのことを教えよう」
「ありがとうございます」
嬉しそうな笑顔を見せるエリシア。リリウスは少しあわてんぼうでおっちょこちょいなエリシアが可愛くて優しい顔をしている。
リリウス・フォリスは風族の中でも最も魔法の扱いに優れていた。
ガルレオンの村の大使は戦闘力が高い者が選ばれる。それは強力な魔獣が現れた時にガルレオン族と協力して魔獣を撃退するからだ。
フォリスに応援要請をすることもあるが、応援が着くまでに数日かかる。
実際にリリウスの前任の大使は魔獣との戦闘で命を落としていた。レオドラ平原は最も危険な場所でもあった。
「エリシア、お前には才能がある。あと数年もすれば私を越えるだろう」
「そんなこと……」
「だけどね。絶対に無理はしてはいけない。分かったね」
「はい。お祖父様。絶対に無茶はしません」
「フフフ。ガルレオンの大使になって7年か。長いようで短かった」
「お祖父様がいるこの引き継ぎの期間でしっかりとお仕事を覚えて、私もお祖父様のような立派な大使になりたいです」
「なれるよ。エリシアならね。それじゃ、食事を済ませて手紙を見ようか」
「ええ、そうですね」
二人は食事を終えると、今朝シロバトの鳩舎(きゅうしゃ)に届いた手紙を開封する。
「どれどれ……。人族との流通のことが書かれているね。それと、ふむふむ……、『その時、急に鳩が頭の上に乗ってハット(・・・)驚きました』……ふむ」
「ぷっ、ふふふ」
「フィリム君は真面目で誠実だけど、こういう冗談が好きだね」
「はい。いつも面白い手紙を書いています。あっ、お祖父様『ウィスター大使フィリム ②』と書かれていますよ」
「2通送ったものだね。明日の朝までにもう1通届かなければ、こちらで複製しよう」
伝書鳩での伝達は鳩が途中で何らかの事故にあい手紙が届かない場合を想定して、重要な手紙は同じ内容の物を複数送ることになっている。
中継地点に届いた手紙の数が送り主の出した数に足りていない場合は、中継地点で複製して、フォリスに送る決まりになっている。
「たまに『②』というがはありますね。一番重要な内容だと何通送るものなんですか?」
「最大で5通かな。100年以上、各地で大使の仕事をしてきたが、今まで見たことはないよ」
「5通ですか……。きっと凄い内容の手紙なのでしょうね」
「フフフ。そうだね」
こうして朝の仕事と朝食を終えるとエリシアはエド達のもとへと出掛けて行った。
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