第26話 初戦が終わって
「ふぅ、普通に勝てたな」
僕は無事に一回戦を勝ち抜く事が出来た。
攻撃し続けると右腕が痛くなるというハンデを背負っている為、僕が選んだ戦闘スタイルはこれだった。
もう最初から画面端まで下がって、相手が隙を見せるまで鉄壁ガードをし続ける。
これは全キャラクターの攻撃モーションや各攻撃のヒット数を把握し、相手が繰り出すであろう攻撃をすべて読み切るというものだ。
正直、右腕は温存出来るけど、めっちゃ集中するから神経は磨り減る。
かといって、こちらから攻撃して攻め切れなければ、無駄に右腕を痛めるだけ。
まぁぶっちゃけ苦し紛れの戦法だった。
でも、相手の行動を読むのが得意だった僕にはすごく向いている戦法でもあった。
「あっ、そういえばスマホがずっとバイブしっぱなしだったな」
僕はスマホを見ると、Lineの通知が凄い事になっていた。
うちのクラスのグループラインなんだけど、一回戦を勝ち抜いた事を皆が祝ってくれた。
だけど、この勝利は素直に喜べない。
何故なら、今回のオンライン大会は通常のトーナメント方式じゃないんだ。
ダブルエリミネーション方式。
通常のトーナメントはシングルエリミネーション方式というものなんだけど、今回のダブルエリミネーションはちょっと変わっている。
つまり、敗者復活の席が一つ用意されているのだが、ルーザーズサイドでもまたトーナメントをやらないといけない。
僕は右腕のハンデがある関係上、ルーザーズサイドに行ったら当然試合数が増えてしまい、右腕の負担がとんでもない事になる。
そうなると僕が目指すのは、ウィナーズ覇者一択なのだ。
僕と初戦で戦った"HARUくん"は、一回戦敗退の為、ルーザーズトーナメントの最初から勝ち抜かないといけない。
彼にとっては非常によろしくない出だしだろうね。
あっ、メッセージ返さないと。
「えっと、『ありがとう。上位入賞を目指して油断せずにいくよ』、と。送信」
僕はメッセージを返して、次のメッセージを読む。
呉島監督からだ。
「なになに? 『早速かましてくれたね。スポンサー予定の企業が大いに喜んでくれてるよ。既に一社がスポンサード申し込んできたよ』!? いやぁ、ありがたいな」
よかった、スポンサーを申し出てくれた企業の一つが、僕のプレイスタイルを見て満足してくれたようだ。
でもまだ一社だけ。
正直最低でも四社位はスポンサーになってもらいたい。
日本国内だけでプロ活動するなら二社位で十分なんだけど、僕はやるからには世界でも活躍したい。
だったら四社以上は欲しい所だ。
メッセージには続きがある。
「『ちょっと変わり種なスポンサーもいてね、そこは上位入賞を条件としているんだ。この企業が君に付けば、今後の君の将来に関して絶対にプラスになるよ』? ……どういう事?」
変わり種なスポンサー……?
あまりスポンサーとして名乗り出なさそうな業種からの申し出って事なのかな?
でも、間違いなく僕にとってもプラスになるんだったら、本気で上位入賞を目指すしかない。
最低でも三位入賞、欲をかけば準優勝になってアジア選手権の切符も得たい。
俄然やる気が出てきた。
「よし、『やる気が出たので上位入賞を最低ラインとして勝ち抜いていきます』、と。送信」
プレイスタイルを変えてから、右腕に痛みが走らなくなっている。
後は対策されない事を祈って、スピード感もって勝ち上がっていきたい。
懸念点があるとすれば、既に僕の初戦がtwitter上で動画が上がってしまっている。
多分こういう大会に出ている人は、この動画を既に見ていると思ってもいいだろう。
対策をされないか、そこが心配だ。
さて、サクサクとメッセージを読んでいこう。
次のメッセージは家族のグループラインだ。
父さんと母さん、そして妹の咲奈がかなり賑わっていた。
和明:千明、お前凄いな!! よくあんな戦法で勝ち抜いたな!!
千尋:私もゲームの事、勉強したけど、あれって頭おかしい位のことなんでしょう?
SANA:お母さん、頭おかしいってwwwwww
和明:とにかく千明、おめでとう! お前は俺達家族の誇りだ、次も勝ち抜いてくれ!!
千尋:でも、右腕を酷使しないでね?
SANA:お兄ちゃん、ファイト!!
ゲームの事を理解してくれなかった両親が、こんなにも僕の活動を応援してくれているのが嬉しくてたまらない。
咲奈は色んなスタンプを屈指して喜びを表現してくれている。
……家族に支えられて、本当嬉しいよ。
僕は『ありがとう』のスタンプを送った。
そして最後のメッセージだ。
相手は奏だ。
『千明君、初戦勝利おめでとう! 一応ルーザーズに行っても試合回数は減らせたけど油断は禁物だよ!』
流石現役プロゲーマーの奏だ、甘い言葉ではなく叱咤激励を送ってくれる。
今回奏はオンライン大会は参加していない。
理由としては次の写真集を出す予定があるので、何とハワイまで撮影に行っているんだ。
本来なら大会を優先すべきなんだが、スポンサー活動の一環である事と、実はアジア選手権の切符を既に持っているんだ。
奏は《デスV》では珍しい女性プロゲーマーなので、今回特別招待枠という形で呼ばれている。
こういう事が出来るのも、このアジア選手権のスポンサーに、奏を個人的にスポンサーしている企業が名乗り出ていて、超ごり押しプッシュで枠を作ったようだ。
……ちょっとずるいなって思ったのは内緒だ。
『アジア選手権で、千明君と戦える事を楽しみにしてるね!!』
ああ、僕も大会という舞台で奏と戦いたいよ。
恋心とかそういうものは一切置いて、プロとして己の技術を用いて奏を倒したい。
奏は好きな女の子であると同時に、僕にとってはライバルの一人だ。
ちゃんとそこは切り分けは既に出来ている。
「……『僕は奏に負ける気はしない。いつでもその首を差し出せるように洗って待っているといいよ』と。送信」
……秒で返事が返ってきたんだけど。
可愛いパンダが地団駄を踏んで「キーッ」と叫んでいるスタンプが送られてきた。
何か、奏はリアルでこんな反応してそうだな。
「さて、次の試合は約三十分後位かな? それまでしっかり右腕を休めておかないと」
僕は次の試合を見据えて、最近呉島監督から教えてもらった右腕のストレッチをしながら、次の試合を待った。
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