第25話 "NEO"、鮮烈デビュー
俺は"れ~じ"という名前で活動している、佐々木 琢磨という。
一時期プロゲーマー活動をしていたが、縁があって今はデスVの公式大会解説者兼配信者として結構な収入を得ている。
今日はデスVのオンライン大会の解説として、公式配信に出演している。
そして実況は、ゲームに詳しいフリーアナウンサーの立川 修二氏。
「いやあ、一回戦から熱いバトルでしたね!! デュークを使って見事勝利した"ちょんぴぃ"選手の試合はどうでしたか、れ~じさん?」
「はい、デュークは現環境では環境随一のキャラの一人と言われるだけあって、上手く高火力コンボを叩き込んでいましたね。飛び道具を飛んで避けたら対空技で撃ち落とされますし、上手く対処されずに押し込む事ができましたね」
「今回の大会は賞金も出ますし、次のデスVアジア選手権の出場枠も掛かっています。"ちょんぴぃ"選手は出場枠をかなり意識しているようですね!」
「今"ちょんぴぃ"選手はプロ界隈でかなり注目をされている新星ですからね、勢いに乗りたいという所もあるかもしれません」
今回のオンライン大会は、実は優勝者・準優勝者にアジア選手権の出場権も与えられている。しかも賞金は第三位まで貰えるんだ。
優勝者に百万円、準優勝者は五十万円、三位も二十五万円貰える。
世界規模で見れば安めの賞金だが、このアジア選手権では世界大会の出場権も得られる大事な大会だ。
世界大会になれば賞金も跳ね上がるので、プロ活動している選手としては見逃せない大事な大会でもある。
故に出場している選手は皆、気合十分だ。
特に"ちょんぴぃ"氏は初タイトルを目標に相当練習をしていたと聞いている。
持ちキャラを変更して、キャラパワーが高いデュークに切り替えた所を見ると、本気で気合が入っている。
「では次の試合に移りましょう! さて、次の試合は非常に注目されている試合ですね。今配信の視聴者数が何と八十万人を突破しましたよ!」
「八十万って、デスVのオンラインプレイ人口を軽く上回ってますね」
思わず笑ってしまった。
俺が今述べたように、デスVのオンラインプレイ人口は約四十万弱。
公式大会の配信で最高視聴者数は、良くても十万人だ。今回はそれを八倍も上回っている。
それもその筈。
FPS界隈で伝説的プレイヤーだった"NEO"氏が、デスVに電撃参戦したんだ。
しかも大会ではキャラパワーが弱いとされているリョウで、だ。
恐らく彼のファンが見守っているからこんなに視聴者数が増えたんだろうね。
「それでは紹介しましょう! プロデビューは二年前、そこから輝かしい成績を収めているキャシィ使い、"HARUくん"!!」
「キャシィもこういった大会で使われるのは珍しいですが、それでも好成績を出しています。変幻自在の攻めに注目です」
「そして、FPS界隈では伝説とまで言われたプレイヤー"NEO"が電撃参戦!! キャラはリョウだ!!」
「バランス型故に特出した点がない為、大会ではほぼ使われないキャラです。どういった戦法を取ってくるか楽しみです」
「しかし、"NEO"は右腕の故障によるハンデを背負っています。"HARUくん"に対して勝ち目はあるのでしょうか?」
「どうでしょうか? ですが"NEO"氏は既にグランドマスターまで上り詰めています。きっと素晴らしい試合を見せてくれる筈です」
「そうですね。それでは試合を開始します! 両選手、始めてください!!」
立川氏の合図で、二人が試合を開始する。
すると、"NEO"氏が開幕早々おかしな行動を取った。
それはいきなりバックステップで素早く後方へ下がり、自ら画面端まで移動したのだ。
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
俺は声を出して驚いてしまった。
そりゃそうだ。
格ゲーにおいて、画面端というのは攻め側に非常に有利になってしまうので、可能な限り避けたい場面なんだ。
それを自ら作り出してしまった。
全く理解できなかった。
「れ、れ~じさん。"NEO"選手は何を狙っているのでしょうか……?」
実況の立川氏も困惑している。
「いや、僕もちょっとこれはわかりません……」
俺だって困惑しているから、答えられる訳がなかった。
何だこれは?
これは戦法なのか?
「おっと、"NEO"選手、ジャブ代わりに飛び道具を飛ばしたぁ!」
「飛ばしましたけど、あまりにも距離があるので、軽々と避けられました」
「ああっ! キャシィの高速突進技を使って一気に距離を詰めたぁ!」
「キャシィの射程に入ったので、ここからは《固め》に入りますね。」
「れ~じさん、今回デスVを初めて観る視聴者もいるので、《固め》について解説もお願いします」
「はい。《固め》とは隙の小さい技や多段攻撃で相手が行動しにくいようにガードさせて追い詰める事を言います。相手にガードをさせて一方的に攻め、ガードを崩して大ダメージを狙っていくんです」
「ありがとうございます。画面端だと特に《固め》はし易いですから、基本的に固められている側は何とか画面端から脱出しようとしますよね?」
「はい、通常でしたらそうですね……。ですが、"NEO"選手、ちょっとおかしいですよ」
「どうおかしいのでしょうか?」
「見て頂けたらわかるのですが、全くガードを崩されていません。むしろ一発も被弾してない」
「……本当、ですね――えええっ!? あのキャシィの苛烈な《固め》の合間にブロッキングを挟んだ!?」
「マジかぁ……。相手の思考を読み切らない限り、あんなタイミングでブロッキングなんて出来ませんよ。デスVのシステム上、通常攻撃をガードしても潜在ダメージが蓄積されて小技を食らっても潜在ダメージ分が加算されて大きなダメージになってしまいます」
「必殺技をガードしたら少し体力が削れてしまいますからね。そんなリスクがある中でブロッキング……豪胆としか言いようがないですね」
いや、ありゃ豪胆なんかじゃない。
読み切ってるんだよ。
キャシィの方がガンガン攻めているのに、全ての攻撃がガードされている。
中段攻撃――下段ガードはほとんどの攻撃をガード出来るので、そのガードを崩す手段――をしたり投げ攻撃をやっているんだが、全て見切っているようでたやすくガードされている。
開始から二十秒経っているが、"NEO"は一度も被弾していない。
勿論潜在ダメージもかなり溜まってきているし、必殺技ガードで体力もちまちま削れている。だが、超必殺技を出すゲージを順調に貯めている。
……何か狙ってる?
「おおっと!! "HARUくん"選手が強引に仕掛けてきたぁ!」
「あっ、これはまずいですね」
キャシィが痺れを切らしたのか、強引に多段技を《固め》に使ってしまった。
これは《固め》を行うにしては隙が若干大きい。
多分"NEO"はこれを狙っているんだと思う。
案の定、多段技全てをブロッキングした。
ブロッキングした直後は、リョウ側にとってはかなり有利になる。
当然"NEO"は理解しているようで、きっちりと最大コンボを当てていく。
さっきまでずっと攻めていたキャシィが、あっという間に体力差で負けてしまったのだ。
すると、ガード一辺倒だった"NEO"が一気に前に出る。
次はリョウが《固め》を行う番だった。
しかし"NEO"の攻めは非常にいやらしい。
わざと隙を作って相手の反撃を誘うが、それを読んで数歩下がり反撃を空振りさせ、高火力コンボを叩き込む。
リョウはリーチが短いものの、一撃はバランス型にしては高く設定されている。
体力が低めのキャシィにとっては、このコンボは相当痛いんだ。
「すごい、凄すぎる! まだ"NEO"選手は一度も被弾していません!」
「……読みが恐ろしい位に正確過ぎますね。しかし分かったのは、彼はカウンター戦術を取っているんでしょう」
「カウンター戦術ですか?」
「はい。ご存じの通り、彼は右腕を長時間使うと痛みが走るというハンデを背負っています。その為わざと画面端に行ってガードに専念しつつ右腕を温存し、相手が焦って隙の大きな攻撃をしてきたら温存していた右腕をフル稼働させてコンボを決める」
「な、なるほど。しかしそんな事出来るんですか?」
「いや、難しいですよ。ここまで完璧に読み切るのは至難の業です。恐らくですが、彼はFPS時代に神がかり的な読みで壁越しヘッドショットを得意としていました。その読みを格ゲーでもいかんなく発揮しているのだと思います」
「お、恐ろしいですね」
「ええ、冗談抜きで対戦したくない相手です」
「あっ!! "NEO"選手が1ラウンド先取! 体力は削れているものの、一度も被弾せずに勝利してしまいましたぁ!!」
「……マジで戦いたくないですね」
うん、本気でやりたくないわ、彼と。
異常過ぎるんだ、彼の戦い方は。
右腕のハンデをハンデとせず、むしろトリッキーな戦術を開拓してしまった。
こういった公式大会ではまず見られない戦術だ。
今ネットの反応を見ているが、大半が『頭おかしいだろ』という反応だった。
本当にそうだよ、こいつ頭おかしいわ。
結局この戦術を終始有利に活用し、"HARUくん"に一度もラウンドを取らせず完封勝利。
いや、一度も被弾していないから、実質完全パーフェクト勝利といっても過言じゃない。
ネットも異常なまでに盛り上がっているし、視聴者数がついに九十万を突破した。
twitterではもう試合の一部が切り抜きでアップされている。
やばい、とんでもない選手がこの界隈にやってきたぞ……!
「れ、れ~じさん。凄い試合でしたね」
「ええ……。僕も長年解説をやっていますが、こういう異質な戦術を取る選手は初めて遭遇しました」
「"NEO"選手、鮮烈デビューですね!!」
「はい、こりゃ今回の大会は荒れに荒れますね」
いやぁ、すっげぇ試合を見せて貰ったわ。
解説業をやっていて、本当によかった。
そして同時に今回の参加選手に同情する。
彼はかなりやりにくいぞ、しかも勝つのも困難かもしれない。
もう彼は、トップクラスの選手と言っても過言じゃない腕前の選手だ。
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