第23話 "NEO"、覚醒
「うーん、何か違うなぁ……」
――NEO氏が戸惑っていらっしゃる
――いい線はいってるけど、違うよね
――このランク帯を超えられるか否かで、オンライン大会の順位も決まってくる
――頑張ってくれ、NEO様!
僕はデスVの練習を配信しながら行っていた。
オンライン大会が開催されるまで残り一か月しかない。
僕は現在プラチナランクまで登りつめたが、そこから脱出出来ていない。
そう、まだ僕は自分のプレイスタイルが確立出来ていないんだ。
「色々模索しているんだけど、どれも当てはまらないんだよね」
――攻め過ぎると右腕が痛くなるし……ハンデがデカすぎる
――FPS時代のNEO様は単身ゴリゴリのイケイケだったからなぁ
――この大会で結果を残さないとプロになれないんでしょ?
「いや、一応プロ登録さえすればプロゲーマーを名乗れるけど、結局スポンサーが付かないと活動は厳しいって感じだね。今回の大会はスポンサー契約出来るかどうかの大事な大会なんだ」
オンライン大会は今後僕が問題なくプロゲーマー活動出来るかどうかの、一種の試験のようなものだ。
この大会で結果を残せないようなら、スポンサーをする意味がない、という遠回しの圧力でもあるんだよ。
最近まではそのプレッシャーすら楽しんでたんだけど、まだプレイスタイルが確立できていない現状、流石に焦りが出てきた。
うーん、何か打開策があればいいんだけど……。
すると、スマホに通知が入った。
配信中なので視聴者に「ちょっとスマホいじるね」と断りを入れて、スマホを操作する。
画面を見てみると、LINEに奏からメッセージが届いていた。
「あっ、奏からだ。えっと『気晴らしに私と対戦しない?』だって」
――かなちゃんを名前呼び……裏山
――皆知ってるか? これで付き合ってないんだぜ?
――付き合ってないなんて信じられん
――俺ならかなちゃんに告白されたら即OKしちゃうのに……救世主は女慣れしているのか
何かコメントで好き放題言われているが、まぁ放置しておこう。
とりあえず視聴者に「今からランクマッチじゃなくて奏とカジュアルマッチに切り替えていいか?」と確認を取る。
まぁ確認を取らなくても視聴者は快諾してくれるだろうと予想していたが、案の定というか急かされた。
Discodeを起動して奏と通話を繋げる。
『こんばんは、ち――NEOさん』
「お前、今本名を言いかけただろ」
『あはは、ごめんごめん』
――かなちゃん、こんばんは!
――今日も声が可愛い!!
――信じられるか、これで付き合ってないんだぜ?
――↑いつまでそのネタを引っ張るんだよwww
おお、流石奏だ。
コメントの流れが早い早い。
そしてスパチャが大量に入ってきた。
ありがとうございます。
「今部屋作ったから入ってきて」
『はーい! ――よし、入ったよ』
「よし、じゃあ早速対戦するか」
『ふふ、今日の私は一味違うからね!!』
奏の使用キャラは《ゲイル》だ。
まるでエアーズロックのような特徴的なヘアースタイルの軍人で、硬直が短い飛び道具と強力な対空技。そしてリーチの長い通常攻撃を使って戦うスタイルだ。
キャラパワーが非常に強く、大会でもよく使われている。
対して僕が使うキャラは《リョウ》だ。
デスVの主人公的立場でバランス型。飛び道具に対空技、当身――特定のタイミングで相手の攻撃に合わせて発動させるとカウンター行動を取る技――やブロッキングを持っている万能キャラだ。
しかし、若干通常攻撃のリーチが短く、特化している部分がないのでキャラパワーは低く、大会では使っている人間はほとんどいない。
ゲイルとリョウではゲイルが有利な組み合わせ。
何故僕がそんなキャラを使っているかというと、やはり右腕のせいだ。
リョウは比較的一撃が重いキャラで、コンボを入れたとしてもそこまでボタン入力が要求されない。
他のキャラの場合はそれなりにコンボ時はボタン入力が必要となってしまい、途中で右腕が痛くなってしまうんだ。
そこでやむを得ずリョウを使っている。
「じゃあ早速やりますか」
『はーい!』
こうして、僕と奏は雑談をしながら対戦をし始める。
やはり奏の方が有利キャラを使っているからか、負けが込んでしまう。
それでもたまに勝てたりするので、この差を何とか埋めないといけない。
だが……。
「いたっ!」
『NEOさん、大丈夫!?』
「だ、大丈夫。まぁそのまま攻め続けていいよ」
『……痛みをこらえながらなのに、全部防御されているのがムカつく』
僕は右腕を完全に動かさないようにして、スティック操作で奏が操作するゲイルの攻撃を全てガードする。
右手が回復するまで、被弾するつもりはない。
たまに投げをしてくるので、それは左手で投げ回避のコマンドを入力して回避する。
――NEO氏、何気にすげぇ事してる
――ってか、マジでガード固すぎないか?
――かなちゃんの攻めや固めは全然悪くない。というかランク上位帯レベルの攻め
――それを被弾しないって、どんだけ読めてるんだよ……
――なぁこれ、動画にしたらバズるんじゃね?
さて、右腕の痛みが引いた。
ちょっと負けてるのも癪なので、大きな隙を作ろう。
よし、このタイミング!
「奏」
『なーに?』
「今日も可愛いね」
『ふぁっ!?』
「はい、隙あり」
ゲイルの動きが止まったので、最大火力コンボを叩き込んで勝利を収める。
――かなちゃん草
――NEOさん卑怯すぐるwwwwwwでもそういうのすこ(スパチャ5000円)
――草
――草
――何という孔明ww
『それ、さ、流石に卑怯じゃない!?』
「勝てばよかろうなのだ」
『む、ムかつくぅぅぅぅ!!』
「ごめんごめん、今度はちゃんと――」
『ん? どうしたの?』
「……いや、何か掴んだ気がする」
むしろ、多分現状僕のプレイスタイルはこれしかない。
相手の攻撃を耐えて耐えて耐え抜いて、相手が焦らして隙の大きな攻撃をしてきたところで最大火力をぶち込む。
こういった攻撃の読みあいは、僕の得意としている領分だ。
奏の格ゲーの腕は相当なもので、ランク帯はマスターだ。
そんなマスターの奏の攻撃を全てさばききれた。ならば行ける筈。
「奏、ちょっとこのままカジュアルを続けさせて」
『もちろん。何かつかめたんだね』
「ああ、奏のおかげでね」
『……またNEOさんの手伝いが出来たなら嬉しいよ』
――なんだ、この甘酸っぱい会話
――なぁ、何で付き合ってないの?
――甘すぎて砂糖を吐きました。慰謝料として今までのスパチャを返せ
――かなちゃんレベルの有名人が、こんなに堂々とイチャついても荒れないって珍しいよな
――↑ほんそれ
その日、深夜一時まで練習に付き合ってもらった。
奏のおかげでついに僕のプレイスタイルは確立出来た。
後はガンガンランクマッチをして、色んなプレイヤーと対戦するだけだ。
次の日からランクマッチをしていき、ついに大会一週間前となった時には、グランドマスターにまでランクアップしていた。
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