鈍臭い博士と助手の話
「……助手くん、絆創膏持ってないかい?」
僕と博士しかいない研究室……ではなく、今日は博士と一緒に蟹を食べに来ている。
難しい実験が成功したお祝いで来たわけなんだけど……
「え、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと、蟹の殻で指を、ね……」
「噓でしょ!?ちょっと、気を付けてくださいよ。」
僕は持参している絆創膏を博士の指に貼る。
「はぁ、大した傷じゃなくて良かった。」
「うぅ、すまない。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。博士こそ気を付けてくださいね。」
「うん、分かった……」
「それじゃあ、殻は僕が剥くので博士は気にせず食べてください。」
「いや、それは流石に大げさだろう。このぐらいの傷なら大丈夫、」
「いいから絶対に剥かないでください。はい、これ全部剝けてますから。」
「おぉ、圧が凄いな……、あ、ありがとう……」
そうして、僕は蟹の殻を剥く係、博士はその殻を剥いた蟹を食べる係となった。
数分後
……なんか博士がめっちゃシュンとしている。
蟹はすごく美味しそうに食べてるけど、雰囲気がなー。
まぁ、この蟹を食べることは珍しく博士の方から提案してきたから、自分ばかり楽しんでしまっていることに申し訳なくなっているのかな。
別に気にしてないのに。
僕は博士が楽しそうなら、満足なのに。
……あの日のような暗い顔はもう見たくないし。
はぁ、仕方ないな。
「あ、あー、ずっと剝いてばかりだから蟹が食べられないなー、誰かが僕の口の中に入れてくれたら嬉しいのになー。」
「!」
博士は僕の言葉にピクッと反応する。
「ほ、ほうほう。私の助けが必要という事かな?」
「まぁ、そうなりますね。」
「うふふ、そうか、それなら仕方が無いな。では少し隣に失礼しよう。」
ふぅ、機嫌直ったか。
相変わらず単純なようで。
「それじゃあ、この大きくて綺麗な蟹を君に上げよう。」
「お、ありがとうございます。……うん、美味しいですね、この蟹!」
「そうだろう、美味しいだろう。……まぁ、剥いたのは君だけどさ。」
「いやいや、博士がくれたから尚更美味しいんですよ。」
「ふふふ、嬉しい事言ってくれるね。それじゃあ、もっと食べさせてあげよう。」
そうして、調子に乗った博士に口パンパンに蟹を詰め込まれて、息が出来なくなりそうになる僕なのでした。
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