第47話 再生と崩壊
愛しい人が私を強く抱き込んでいるのを感じながら、眩しさで閉じていた目を開きました。
そこには、淡く光るルシアン様の姿が在りました。
発している輝きが強くなったと思ったら、周囲や私たちが光で包まれていきます。
「アル兄様っ!」
ルシアン様がどういった魔法行使をしているのかは分かりませんが、その魔法に
私たち2人にだけ
「ルシアン様が何をしているのか分かりませんが、私が
「ふふふ。今度は、ルゥナが僕を守ってくれるんだ」
見上げた彼はふわりとした笑顔を浮かべていて、一度愛しい人の身体を抱き締めると満面の笑みを返しました。
「うん! 私もアル兄様を支えていきたいから!」
「ありがとう、ルゥナ」
私のおでこにさっとキスをしたお兄様は、剣を構えながら佇んだままのルシアン様を見据えました。
どこかぼんやりとしたまま空中を見つめていたルシアン様の光が、ますます輝きを強くしていきます。
「……これはっ……!」
周囲を素早く確認していったお兄様は、焦ったような顔をしました。
見ると、木で出来ている小屋の木がどんどんと
辺りを包み込む光がどんどんと増すと、
ですが、それらがだんだんと形を変えてボロボロと崩れ去っていきます。
「アル兄様……これって……」
お兄様の腕に半分縋るようにしながら、周囲を見渡していきます。
ふと軽さを感じた足元へ視線を落とすと、足首に繋がれていた鎖が触れている部分を残して全てボロボロに崩れ去っていました。
抱き締めているその腕の力を更に強めたお兄様が、凍てつく眼差しで光り輝くルシアン様を睨みつけます。
「これは……
「
少しばかり動揺している様子のお兄様は、焦りを抑えるかのように一度固く目を瞑ると、まだ焦点の合っていないままのルシアン様を見据えました。
「ルシアンは光属性を得意としている。その威力は桁違いだ。さすが王族だと思う。魔力量も膨大だし。その威力で、全てのものを
「……
その言葉を聞いて理解した途端、サァッと血の気が引いていくのが分かりました。
見ると、小屋もどんどんと分解されているのか、徐々に私たちの周りから物が消えていっていきます。
私が闇魔法を行使して
(……アル兄様を、
隣にいるお兄様の身体を強く抱き締めると、自分の行使している闇魔法の威力を上げます。
「ははは……そうやって……見せつけちゃってさ……俺は何も悪くないのに……ほら、一緒に、消えていっちゃおうよ……」
私たちの姿を瞳に映したルシアン様がにこりと微笑むと、その身体が益々光り輝き始めました。
「……っ!」
ルシアン様に押されないようにと、闇魔法の威力を更に上げていきます。
小屋がないばかりだけでなく周囲の草木にも影響を及ぼしているようで、周りにある自然も含めた全ての物が
「ははは。地面は残しておかないと、俺たち立って置けないもんね。……あれ? どうせ消えてなくなるなら、無くてもいいのかな? あはは、ほらほら、早く来てよアルフレート、プティア」
今まで見た中で1番無邪気な笑顔を向けながら、ルシアン様が私たちに手を差し伸ばしてきました。
その動きで更に光魔法の威力が増して、押されないようにと必死でルシアン様に向かって両手を掲げます。
溢れるばかりの光が、周囲に広がっていきます。
自然が、どんどんと消えて無くなっていきます。
自然だけじゃ無くて、光に吸い寄せられるように集まってきた動物たちも、消えて無くなっていきます。
「……っぅ!」
その姿を見て、私の目から涙が溢れ落ちました。
(ごめんなさい……! 私の力じゃ、私とアル兄様だけで、精一杯……)
「……ルゥナ、僕がルゥナを支えるから、ルゥナは集中して」
耳元でお兄様の囁き声がしたかと思うと、周囲を凄まじい魔力の渦が覆っていきました。
「……アル兄様……」
見渡すと、私たちの周囲を壁がぐるりと取り囲んでいました。
ひんやりとした空気が頬にあたったかと思った次には、木の香りが漂ってきます。
お兄様はその魔法行使によって、ルシアン様の光がこれ以上広がらないように、壁を巡らせてくれたのです。
氷の壁から木の壁、そして石の壁へ。煌めく光は、おそらく防壁魔法のはずです。
ルシアン様の
「ルゥナ、持久戦だ。どちらかの魔力が無くなったら、そこでお終いだ……大丈夫?」
お兄様は気遣うように、優しく私に微笑みかけてくれました。
さっきまで魔物の殲滅をしていた彼は、相当魔力を消費しているはずです。
その瞳はいつもよりも濃くて、こうしている間も次々と魔力展開をしていき壁を作成していっているのが分かりました。
(絶対、私がアル兄様を守るんだ……!)
揺れる瞳を自覚しながらも、その大好きな瞳を見つめ返しました。
「大丈夫! 私、魔力量には自信があるから! それに、『闇』を司るこの力を、ちゃんと使いこなしてみせるから!」
「ルゥナの身体は僕が支える。ルゥナは全ての感覚をルシアンに向けていいからね」
剣を捨てたお兄様は、私の身体を後ろからしっかりと包み込んでくれました。
その温もりにこれ以上のない程の安心感と喜びを感じながら、彼の身体に身を委ね意識を全て前方のルシアン様へと集中させます。
周囲に轟く音が、スッと消えていきました。
目を閉じ感覚を研ぎ澄ませると、ルシアン様から感じる魔法行使に全神経を集めていきます。
その光魔法全てに闇魔法を行使し、
その力は、どんどんとルシアン様自身にまで侵食していきます。
(……っ! まずい! これ以上続けたら、
闇魔法を掴んだ私は、
これ以上ルシアン様に
焦った私は自分の闇魔法の威力を下げると、ルシアン様へと伸ばしていた
「あははは、どうしたのプティア? あれ? ルーナリアだっけ? うん、もうどっちでもいいね。どしたの? 早くこっちに来ないんなら、俺がいっちゃうよ?」
「……っ!!!」
ルシアン様からの圧を一気に感じ、慌てて魔法の威力を強めました。
(……これ以上、したら……でも、そうしたら……)
ルシアン様に
難しいバランスの中、どうしても弱気になりがちは私は、どんどんとルシアン様に押されていきます。
「っうっ!」
「ルゥナっ!」
お兄様の抱き締める力が僅かに強くなりました。
ですが、彼も限界が近いはずです。さっきから威力を増したルシアン様の圧で、お兄様の展開する魔法の速度が尋常じゃないくらいに高まっています。
これだけの速さで魔力展開をするなんて、下手したら脳が焼けきってしまうのではないかと気が気ではありません。
抱き締める腕が僅かに震えているのを知覚し、頭が真っ白になりました。
「アル、にぃさま……っ!!」
ルシアン様に負けないようにと、一気に魔力を上げていきます。
私とルシアン様の魔力が、フッと
瞬間──
すぅっと周囲から音が消え去り、辺りが静寂に包まれます。
「………っっっっ!!!!!!!!」
刹那の時間、驚きで目を見開いているルシアン様と、視線が交差します。
その紺碧色の瞳は、とてもとても澄んでいて、深い深い海の色を思い起こしました。
「あ……」
「ルゥナっ!」
お兄様が私の身体を強く抱きしめました。
一気に周囲が膨張するような感覚に襲われたと思ったら、辺りが今までにないくらいの光に溢れ、あまりにもの眩しさで目を閉じてしまいました。
お兄様の腕の中で身体の向きを変えると、彼をぎゅっと抱きしめます。
互いに抱き合う中、渦巻きのような激しい突風が巻き起こり、私たちを弄んでいきました。
愛しい人の温もりを感じ、決して離さなようにと強く抱きしめ、上か下かも分からない渦へと呑み込まれていきました──
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