第35話 回り道 sideアルフレート
この旅を通して、ルゥナから沢山の心を貰っている。
ルゥナの想いを知って。ルゥナも僕の想いを知ってくれて。
そして、心をもっともっと分かち合い、深く繋がり合いたいと思えて。
そんな最愛な人と、ずっとずっと、共に歩んで行ける。
これ以上の喜びは、ない。
彼女がいるからこそ、僕は生きている──
「風が、強いですね……」
「うん。渦巻きみたいな風だね」
僕の腕の中に入れば、少しでも風が弱まるだろう。
そう思って、飛びそうになるフードを抑えているルゥナの身体を、優しく包み込んだ。
高く晴れた空を見上げると、うろこ雲がかなりの速度で動いていた。
量がそこまで多くないのと南へと向かっているのを確認し、天候が崩れる気配が無さそうだと安堵する。
「ルシアン様たちにお会いしていないですが、かなり遅れちゃってますか?」
僕の方を振り返り尋ねたルゥナの黄金色の瞳は僅かに揺れ、そこに不安の色を宿しているのが見てとれた。
「大丈夫だよ。ルシアンたちは内陸部ルートを通っているけど、僕たちは北東へと迂回する街道を進んで北の砦を目指しているから会わないんだ。少し大回りになるけど、
「良かった。ありがとうございます、アル!」
彼女を安心させるように頭を撫でると、僕の手の温もりでほっと息を吐き喜びで輝く笑顔を見せた。
こんな事でも喜んでくれるルゥナを見るたびに、愛おしい気持ちでいっぱいになる。
ルゥナにはああ言ったが、
僕はルシアンたちと旅程が被らないように、
別れる前に説明した通り、彼らから5日程度遅れて北の砦に到着する事になるはずだ。
ルシアンが言うように、北の砦は東の砦よりも安定している。
おまけに第二王子には近衛隊のアウルムとプラータがついている。
万が一魔物の侵入が起こったとしても結界修復の目処も立っている今、戦力的にも問題はほとんど無いと判断した僕は、街道を外れる事にした。
というのも、ルシアンには申し訳ないのだが、ルゥナの彼に対する態度がどうしても気になったのだ。
この旅で人に対しての緊張をいい意味で解くようになったルゥナが、ルシアンの前だと態度が少しだけおかしい。
そこを危惧し、旅でかち合わないためにも大回りする選択をしたのだ。
ルシアンたちのルートを通るよりも2日程度の遅れだろうから、優秀な第二王子様に頑張ってもらおうと思いそう決断をした。
「ちょっと早いけど、今日の宿に泊まるために街へ入ろう。ここからは暫く街道沿いに街がないからね」
「分かりました。今日はどんな宿ですかね」
「ははは。ルゥナは、宿のご飯が楽しみだよねきっと」
「……いいじゃない、それも楽しみなんだから〜」
ちょっと拗ねたような声をあげるルゥナが可愛くて、思わず抱きしめてしまった。
こうした子どもっぽい態度を取る事を彼女は気にしているようだけど、僕に敬語を使わないルゥナは幼い頃を彷彿とさせて、愛くるし過ぎてしょうがなくなる。
といっても、僕に敬語を使うルゥナも勿論可愛くて堪らないので、どちらにせよ愛おしくて仕方がないという結論に達している。
今日の街は、あまり大きいとは言えない
のんびりと時間が進んでいるらしいここは、皆どこか緩やかな表情をしていた。
通りを歩いている人に宿の場所を尋ねると、顔を隠した怪しそうな2人組にも関わらず親切に教えてくれた。
街に一つしかないという小さな宿屋に入り今晩の宿を予約すると、2階に一部屋しかない作りらしく少し驚いた。
「アル兄様、宿が取れて良かったですね」
「あぁ、危なかった。ここが埋まっていたら、誰かの軒先でも貸して貰わないといけない所だった……」
「ふふふ。晦冥(かいめい)の騎士様のアル兄様がいれば、皆様喜んで本日の宿として家に招いてくれるんじゃないですか? だって、この間助けた時も拝まれていましたもんね、アル兄様……ふふふ」
くすくすと心底楽しそうな笑みを溢しながら、ルゥナが僕を見上げた。
「いや、あれは助けたから特殊なだけで、さすがにそこまでは無いだろうし……それに、そんな事されても……」
「あははは、そんなに困らなくても、いいのに……ふふふ」
心底困りきった僕の顔が面白かったのか、ルゥナは益々楽しそうな笑い声を上げた。
そもそも、またそこで変な女とかいたらと思うとゾッとした気分になって頭が痛くなるし、変な男がいたらそれはそれでルゥナが心配になる。
まぁ、そんな男に対しては容赦なく排除するだけだと1人小さく頷いてしまった。
「まだ日も高いし、ちょっと街でもぶらぶらする?」
「はい! アルと一緒に歩きたいです」
満面の笑みを浮かべるルゥナが可愛くて、その言葉が嬉しくて、頬を優しく撫でると柔らかな唇にキスをした。
「じゃあ行こうか」
「……はい」
頬を僅かに赤くするルゥナに手を差し伸べると、嬉しそうな顔をしながらその手を素直に取ってくれる。
彼女の小さくて柔らかな掌を包み込むと、宿を出て散歩に出かけた。
「……」
「ルゥナ?」
街を歩いていると、急にどこか一点を凝視したまま立ち止まってしまったルゥナの顔を覗き込んだ。
「あ……ごめんなさい……あの、あっちに行ってもいいですか?」
「うん? いいよ、行こう」
僅かに黄金色の瞳が濃くなるのを見つめながら、ルゥナの指し示す方向へと手を繋ぎながら進んでいった。
風はまだ強いようで、頬に僅かにあたるその冷たさが、歩く身には心地よく感じる。
澄み渡る青空を流れる雲は、さっきと同じようにかなりの速さだった。
どこかぼんやりした様子のルゥナは、じっと前を見つめたまま歩いていた。
「ルゥナ、大丈夫? 調子悪い? 宿に戻ろうか?」
「あっ! あの……ごめんなさい……体調は悪く無いんです。でも、なんていうか……えっと、とりあえずついてきて貰っていいですか?」
ルゥナが若干狼狽えたような様子で僕を見上げた。
いつもより瞳の色が濃いぐらいでその顔色は悪くないし、こんな風になるのは何かに興味があるルゥナの様子に似ていた。
「いいよ。ルゥナのお願いは何でも聞くしね」
にっこりと微笑みかけると、僅かに頬を染め歓喜の笑みを浮かべた。
何かあれば僕にはすぐに言ってくれるので、彼女と一緒に過ごす時間を楽しむ事にする。
どんな状況であれ、ルゥナさえ一緒にいればいつでもどこでも、僕は幸せだ。
長閑な風景を堪能しながらルゥナの示す場所へと足を運んでいく。
合間合間で彼女の様子を
繋いだ手の温もりに心満たされながら街はずれの斜面を登っていくと、風通しの良い開けた場所に辿り着いた。
墓地だと思われるここには、街の規模に見合った数の墓標が整然と並んでいた。
「……」
「……ルゥナ……ここが気になる?」
ずっと墓標を見つめるルゥナの顔を覗き込み、その黄金色の瞳を見つめた。
「あっ! アル兄様……ごめんなさい。あ、あの──」
ザザザザザァァァッ………
一陣の風が僕たちを吹き抜けていった。
「あ……」
風で飛ばされたルゥナのフードが、はらりと脱げた。
陽の光で更に透けている金色の髪と彼女の美しい顔がはっきりと現れた。
フードが外れた事に焦っているのだろう、瞳を僅かに揺らしながら慌てふためいている。
「大丈夫、ルゥナ。そんなに慌てないでいいよ」
にっこりと笑いかけ彼女に手を伸ばそうとした時、ふと人の気配を感じた僕はその方向を見た。
こちらに向かって歩いてきていた老齢の男は、何故か僕たちを見て顔色を悪くさせた。
眉を
「申し訳ないが──」
「イントゥネリー様……!」
青白い顔をし、体を震えさせている男が口にした名前は、ルゥナの実母のものだった──
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