第14話 ダンスパーティー ②
フェリシアとオリエルは、やっぱりダンスを踊っている最中もいつものように何だかんだと言い合っているようです。
ですが、軽口を言いながらも2人とも楽しそうな様子を見て、私の頬も緩んでしまいました。
「あの……ルーナリアさん!」
「はい……?」
声をかけられた方を見ると、知らない男子生徒が私に手を差し伸べていました。
「わ、私と一緒に踊ってください!」
「え……!? あ、あの、ごめんなさい、この後も友人と約束をしているので……ちょっと今は無理なんです」
「ゆ、
肩を落としながらトボトボと立ち去っていく男子生徒の後ろ姿を見送ります。
気を取り直してフェリシアとオリエルのダンスを見ようと視線を戻したところ、またも声をかけられました。
結局、断っても断っても、次々と他の方々が話しかけてきて、ちっとも2人のダンスを見る事になりませんでした。
「ルーナリアさん! 一生の思い出にしますので、ぜひ俺と踊ってください!」
「い、一生の思い出……? え? あ、あの……今から先約あるので、ちょっと無理なんです……ごめんなさい」
少しばかり身を乗り出して声をかけてきた男子生徒の発言が謎すぎて、戸惑いを隠せませんでした。
私を見つめている熱い視線が、少しばかり怖く感じてしまいます。
「先約まではまだ時間あるでしょ? だったら、いいじゃん!」
「え……あの、声をかけていただいたのは、ありがたいのですが──」
「ありがたいならオッケーってことで」
断ろうとしていたその言葉を遮ったかと思うと、私の手を掴み引っ張っていこうとします。
急な動きに全くついていけない私は、ただただ目を見開いて自分のその手を瞳に映しました。
「……あ、あのっ……」
「──ルーナリアに何してんのよ」
「──その手を離せよ」
私とその男子生徒の間に、スッとフェリシアとオリエルが入ってきました。
「あ……」
離された手に僅かに残る痺れを感じながら、颯爽と現れてくれた友人たちを見つめます。
2人の後ろ姿から、何だか闘志のようなものが
さすが騎士隊希望なだけはあるとその姿を見て感動のあまり、思わず感嘆のため息を吐いてしまいます。
(フェリシアもオリエルも、カッコイイ……)
自分の身体が緩んでいくのを感じて、かなり緊張していたのだとようやく気が付きました。今になって少しだけ震える指先を隠すように、グッと胸の前で握りしめます。
先ほどの男子生徒は、2人の登場ですぐにどこかへと立ち去って行ってしまいました。
「フェリシアもオリエルも、ありがとう……」
振り返ったその顔に少しだけ気遣うような色を宿している2人に、にっこりと微笑みかけました。
「全く〜本当、あーゆーのにはガツンと言ってやっていいんだからね〜」
「本当油断も隙もないな。ったく……じゃ、ルーナリア今度は俺と行こうぜ」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら手を差し伸べてくるオリエルに向かって、大きく頷きます。
「うん。よろしくね、オリエル」
「おうよ。さっき教えた事ちゃんと守れよ」
「2人とも、戻ってきたら飲み物準備しておくからね〜。ルーナリア、楽しんでね〜」
見送ってくれるフェシリアに手を振ると、オリエルの手を取って一緒にフロアに出ます。
さっき教えてもらったように、この身をオリエルの身体へと委ねました。
フロアに鳴り響く音が、耳から心地よく入ってきます。
「……そういえば、私結局2人のダンスほとんど見れなかった……」
オリエルの瞳を見上げながら、ぽつりと呟きました。
色々な人に邪魔をされてしまって、大事な場面をちっとも見れていなかったという事実に今更ながらに気が付いたのです。
そう思うと段々と不愉快な気持ちになってきた私は、思わず顔を
「お、ルーナリアでも、怒ることあんだな」
「え!? 私だって、人間なんだから怒る事だってあるよ」
「あはははは。ま、確かに、そうだけどさ…! はははは」
大笑いをするオリエルに驚いた私は、口をポカンと開けながらも必死で抗議を続けます。
「そんなに笑わなくても……! もう、何が面白いの……って、ふふふ、そんな、笑わないでよ……ふふふ」
「悪ぃ、悪ぃ…っぷぷ。だって、お前が怒るって……」
結局2人してダンスを疎かにして、笑い転げてしまいました。
周囲を踊る他の生徒たちが、
「やべ……笑いすぎた……ほら、踊ろうぜ」
「……ふふ……そうだね……」
完全に目立ってしまった私たちは、くすりと小さな笑みを浮かべながら、綺麗な音色を奏でる音楽に合わせてダンスを踊り始めました。
すっかり踊ることに慣れてきた私は、オリエルとの呼吸を合わせながらダンスタイムを楽しみます。
「……そう言えば、ルーナリア……」
「なあに?」
見上げたオリエルの瞳は、さっきまでと違って真剣味を帯びていました。
僅かに硬い声とオリエルのいつもとは違った雰囲気に、思わず私の背筋もシャンとしてしまいます。
「『結婚就職』の件なんだけど……」
(あ……)
思わず僅かに目を伏せてしまいました。
オリエルが何も言って来ないのをいい事に、結局返事を保留にしたままで、そんな自分が恥ずかしく感じてしまいます。
「……ごめんね、オリエル……あのね、一度家に戻ってみてから、考えてもいい、かな……?」
僅かに揺れる瞳で、オリエルを見つめました。
(自分勝手なのは、分かってる……けど……やっぱりアル兄様への想いは………せめて、最後に……一目逢いたい……)
戻ってもウィルダ様との仲睦まじい様子を見る事になるだけだと分かっていても、この2年間で成長した私はきっとまた違った見方が出来るはず。自分の想いを抑えて抑えて、それでもダメなら──
そんな秘めた決心が揺るがないようにと、大きく息を吸いました。
「本当に、ごめんね……都合のいい事言ってるのは、分かっているの……」
オリエルが思わず顔を伏せてしまった私の肩を、ぽんと軽く叩きます。
その合図で顔を上げると、オリエルの瞳が間近にありました。
「気にすんなって! 前も言っただろ。一度戻ってから考えてもいいって。そんな深く考えんなよな。本当ルーナリアはいっつも真面目」
ニヤリとした笑みを浮かべながも優しい眼差しを向けてくれるオルエルに、揺れる瞳をなんとか抑えました。
「ありがとう、オリエル」
「へへ。そうそう。楽しく笑って行こうぜ」
オリエルから穏やかな気持ちを貰った私は、さっきまでの沈んでいた心が浮上していくのを感じました。
煌びやかな卒業パーティを心ゆくまで楽しもうと、オリエルに笑顔を向けてその身を預けダンスを踊ります。
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