第33話 南の林へ



 乗り合い馬車に揺られ約30分、ようやく南門に着いた。


 当初は意気揚々とギルドを出たイサムであったが、このアレスタの街の地理を全く把握していないことに10分ほど歩いて気がついた。


 店を眺めながら進んでいたが、いったいどこに向かおうとしていたのかは謎である。


 近くの薬屋で道を聞くと、「冒険者ならもっとけ」と銀貨10枚所持金の半分でポーションを買わされた。


 ガラスの薬瓶の中が濁りきった紫色の謎の液体何ポーションか知らない物を訝しがるこもなく収納に納め、教えられた乗り合い馬車に乗り込み、無事に目的地へと辿り着けた。


 南門はこの街に着いた時の東門とは違い、門が開け放たれ人や馬車の行き来が活発な様子だ。


 昨日ロバートに言われたギルドの買い取り出張所も、街に入ってすぐの場所に設けられているのが確認できた。

 これに気付かず素通りする者は居ないだろう。というくらい目立つ看板が立てられた、馬車に運び込みやすい作りをした倉庫という感じだ。


 これは確かに知っていて当然と思われても仕方ないな。と今も馬車に積み込み作業をしている場所を眺め、小言を溢しながら門を潜るべく歩を進めていく。


 2人だけの東の門番と違い、こちらの南は4人居るようだがそれでも出入りに数分待たされる事になった。


 ギルド証を見せ通過する際に、仮の身分証をどうすればいいのか確認すると回収してもらえた。


 南門から街の外へ出ると、街道の南西側に常設依頼の数多くをこなせるスポットの林がある。とエイミーに言われた通り生え繁る木々を視界に捉え、そちらへと進んでいった。


 エイミーの話では猫の飼い主は街道沿いを探したが見当たらず、林の中までは探しきれない。と依頼を出したそうなので猫が居るとしたら今から行く林の中だろう。とのことだ。


 なんとも都合の良い話であるが、そんなことは気にしないイサムはずんずんと林の中に入り込んでいった。



「ほうほう、街から近いだけあって林をそれなりに進んでもたまに人を見かけるなぁ。あの人たちも俺と同じ新人なのかな?」


 おっと、呑気に見てないで常設の納品物探さないと……って、この草たぶん依頼書に描かれてたヤツ……うん、特徴の葉の裏が産毛のようになってるな。


 さてこれを……引っこ抜けば良いの? それとも葉っぱだけ採れば良いの?


 うーん、確か葉っぱの採取って書いてあったから、葉っぱだけで良い……よな?


 それでもぎ取るのか切り取るのか、っていっても切るのは魔法で切ること……あっ。


「そういや懸賞首のダガーがあるじゃーん!!」


 そうだったそうだった、パーンしたらドロップ品として無骨な感じの飾り気のない安物手に入れてたじゃん。


 つーかまだ懸賞金も貰って……いやいや、それは後で良いとしてダガー来い来い! よっし、これで……いやこれ汚ねぇな?


 うぁ~これ洗っておけばよかったわ……まぁここで洗えば良いか、手入れの仕方は知らんけど拾い物だし気にせんでも良かろ。


「熱湯洗浄っ!」


 はいはーい、ザブザブかけ流し熱湯風呂でグルグルキレイキレイしましょうねー。


 そんであとは風で水気を……いや、熱を加えて熱風? あっそんなのより。


「脱水!」


 おおっさすが魔法っ! 持ち手とか鞘に染み込んだ水気がモアッと蒸気化して飛んだわ。


 つーかこれだと洗うじゃなくて浄化とか清潔みたいな、ただ綺麗になるのを想像しても対応した属性があれば出来たかも……?


 まっ、それは今度試してみようっと。


 とにかくこれでさっきより綺麗になったはず!


「どれど…あっちゅいっ!?」


 ふーっふーっ! あ~あっつ! 持ち手アホほど熱持ってんじゃんっ!!


 誰だよ熱湯でザブザブ金属洗って冷まさず完了としたヤツはっ! おかげでオイラのお手々真っ赤だよっ!!


 あーくそっ、持ち手が薄い布で巻いてあるだけの金属剥き出しの物だったか。

 さすが懸賞首、こんなとこにまで罠を張るとは汚ないっ! 物理的にも汚なかったもんな、今度から気を付けよう。


「冷却っ!」


 にしても綺麗にするだけでえらい手間がかかったわ、魔法三発も使わせるとかとんだゴミドロップだぜ。


 とにかく折角用意したんだし、これで切って…おぉ?


「手応え無く切れた……葉っぱとはいえ、もしかしてこのダガーわりと良い物だった?」


 ちょいと木の枝をば……。ちぇいっ!


 ……確定、これ良い物だ。


 いやこの世界の一般的な刃物は知らんけど、枝に触れたと感じること無くド素人が切り落とせる切れ味は普通じゃないだろうな。


 ヒャッハーっこれはとんだお宝だぜぇっ! これをゴミ扱いしてたヤツの気が知れねぇわっ!!


 よっしゃっ! こいつでドンドン採取物を刈り取って……あれ? さっき切った葉っぱはどこだ……?


 枝切るときにどっか落とした……まさか?


 鼻腔に微かに残るこの草餅を食べた後のような香り──草食っ、お前が犯人かっ!?


 ちくしょうっ! 朝起きたときから忘れてたわこの自意識乗っ取りスキルっ!!


 やめろっこれ以上勝手に草を食むんじゃないっ! これは俺の収入源になる草なんだよっ!! モサモサ……


 くそぉっ!! 意識するまで草を食ってることに気が付けなかっただとっ!?


 いやそれよりっ!……なんでこんなに草を食べ続けられるんだ? モサモサ……


 収納にはそれなりに入れたが、延々食べ続けられるほど入っていないはずだぞ?


 まさかあいつが……


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