未定

第32話 初仕事探し



「うっ……いっつつ…………朝か」


 あー…瞑想訓練もせずに寝ちゃったか、あちこち痛ぇなぁ。


 どっこいしょ……っと。


「えー…と、昨日は……」


 あぁそうだ、昨日はエイミーさんにしこたま殴り回され、鼻血まみれでギルドの外に捨てられたんだっけ?


 その後ロバートさんに鍵渡されて魔法で治したら? なんて軽い感じで言い残して去っていったんだったわ。


 はっきり言おう。


「魔法が怖くて回復が出来るかあっ!?」


 モチロン使いませんのことですとも!


 オイラ惨めに惨たらしく頭パーンしたくないもんねっ!


 それはそれとして、今日から冒険者の仕事始めっぞー!!


 とはいえ、だ。なにをしようか。


 常設の依頼は達成報告だけみたいだけど、どうせなら雑用でも依頼を受けてみようかな?


 いずれにしろ常設依頼すら把握してないしとにかくギルドに行くか!




 う~むむむむぅ……常設依頼は回復薬、毒消し薬とかの素となる植物や実の採取が5件、街中の清掃業務が8件、野鳥やホーンラビットとかの食肉調達が6件……か。


 それで雑用依頼が、引っ越しの手伝い、商会の荷降ろし、迷い猫探し、落とし物探し……くらいかな、Gランクで受けられるのは。


 常設のは街中でやれるのは清掃業務くらいか、てか拘束時間……じゃなくて解放時間が夕刻の出来高払いってどれも小っこく書いてあるな。

 他の依頼よりけっこう高めの報酬が書いてあるけど、たぶん朝から晩までしっかり仕事した場合の最高額のことなんだろう。


 つまり清掃は無し。


 となると常設は街の外、採取や食肉の調達を平行して行うのが良いのだろう。


 ただ……ホーンラビット? それ草原でボッコボコにされたあの兎よりヤベェのじゃ?


 俺あの角無し毛玉にすら負けてんのに角生やした兎に勝てんの?


 …………うん、兎には喧嘩売らんとこ。


 それ以外の野鳥とかを狩っていこう。今なら多少魔法使っても誤魔化せるし。


 あとは雑用依頼だけど、こっちは街中の依頼だし今日は無しでいいかな? 報酬も安いし。


「雑用依頼をお探しですか」


 うん? 誰……ひいっ?!


「ななな……何かご用ですかぁ、えっエイミーさん……?」


 いっ、今は大人しくたって本性は割れてんだよっ!


 なんでカウンターから出てきて話しかけてきたのさっ!?


「ええ、ロバートさんから頼まれているからというのもありますが、どうにも誰も受けてくれない依頼がありまして」


 ん? もっ、もしかしてまた依頼の……お死事斡旋ですかっ?!


 押し付けられて堪るかっ!


「そっ、そうですか。俺は今日は街の外の常設依頼をやってみるつもりですので、雑用依頼はちょっと……」


「それはちょうど良かった! 実はです「ちょっと待ったああああっ!?」……なんです?」


 ひょえっ?! にっ、睨まれようと凄まれようと黙っていられるかっ!


 ここの依頼に街の外でやる雑用なんて無かったぞっ!


 それでちょうど良いとか上のランクのやらせるつもりかこいつっ!?


「おっおお俺は今日が初日ですからね! だから基本をっ! そう基本を学ぶために常設だけをしっかりやりたいのですよっ!!」


「それは大事ですね、でも大丈夫ですよ。街の外で常設依頼をこなしながら次いでで良い雑用ですので。勿論Gランクでも受けられるものですよ」


 だからイヤ……なに? Gランクでも受けられる?


 そんな依頼無かったと思うけど、見落としてたか?


「そこの迷い猫探しの依頼なんですが、街中の依頼と勘違いされているのか誰も受けてくれないんですよ。

 その猫は街の外に逃げ出したらしくて、飼い主も見つかれば程度の依頼なので、連れて帰ることが出来なくても失敗扱いにならないモノなのですよ」


 ふ、ふーん……なるほどね。


 確かに俺も街中依頼と思ってスルーしてたし、常設こなしながら見つけたら連れ帰るだけと大した手間ではないな。


「ですので、この依頼は見つけて連れ帰った方が依頼を受けたものとして後から処理をし、評価と報酬が受け取れる特別依頼扱いとなっています」


 ほーん、そんな依頼があるのね。


 それなら受けても良いね、って後から処理ってことは今は受けた扱いにならないのかな?


「そういうことなら迷い猫探しを受けます。通常の処理じゃ無いみたいですけど、どうすればいいんです?」


「ありがとうございます。こちらの依頼は達成が確認されてから依頼表を取り下げることになりますので、そのまま探す猫の特徴を説明を受けるだけで結構ですよ」


 ふんふん、茶トラの成猫ね。


 名前は……おう、気に入ってないのか呼ぶと逃げるから教えられないのね……改名してあげなよ。


 それで逃げた先が街の南で、そっち方面なら常設依頼のほとんどの物を集められるそうだ。まさに一石二鳥。


 もし捕まえることが出来たらここに連れて来ればいいようだ。


「以上です。それではお気をつけて」


「はい、良い情報も貰えたしありがとうございます!」


 うーん、エイミーさんってもしかしていい人?


 勝手に怯えてたけど良い気はしないだろうし、今後は態度を改めよっと!



 意気揚々とギルドを出ていったイサムを見送り、エイミーはほくそ笑みながら迷い猫探しの依頼表を破り捨てていた。


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