第27話 冒険者登録したよ



「なにやら受付がおかしな事になっていると思ったら……何をやっているんだい、イサムくん?」


 ん? あっ探すまでもなくロバートさんが来てくれたわ。


「ロバートさん、まさかですけどこの変な人はお知り合いですか?」


 変な人とか酷い……。ほんのちょっと人より草を生やせる程度の普通の人だよ。


「うんそうだよ、エイミーくん。たまたま知り会う機会があってね、仕事を探しているってことだったから一先ず冒険者になることを勧めておいたんだけどね……」


 この赤毛の辛辣受付嬢、エイミーって名前なんだ。


 君は不要なんであの世送りデス、クエスト頑張ってくださいねー。なんてお見送りされないように名前はしっかり覚えんとな。


 ギルドに愛される存在でありたい、そして楽に稼がせて欲しいので好かれる努力を頑張るぞいっ!!


「それでこの迷惑な草男がギルドに来たんですか?……いくら来る者拒まずなギルドだとしても、人は選んで欲しいですね。またいつものご病気ですかロバートさん?」


 ……もしかして、もう挽回できないくらいエイミーさんに嫌われてる。とか無いよね?


 垂れ目のおっとりしてそうな顔して口が悪いだけだよね? 可愛い顔して~を狙ったキャラ付け……だといいなぁ。


「ははは……まさか登録に来るだけでこんな事になるとはね。うん、見ての通り彼は珍しいスキルを持っていてね。それを調べたいからギルドに誘ったんだよ。

 あぁイサムくん。大人しく・・・・登録を終えたら後でちょっとお話説教、しようか?」


 あれ、なんだかロバートさんの様子が……?


 ただ草を生やしてトラブル回避しただけなのに、どうしてこうなった……逃げようかしら。


 でも──。


「えっ……えぇ、俺も話したいことがあったので後で……」


 すごい威圧感を感じる。今までにない何か重い威圧感を。

 怒気……なんだろう向いてきてる確実に、着実に、俺のほうに。

 逃走計画はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。

 生やした草むらの向こうには沢山のギルド関係者がいる。決して仲間じゃない。

 説教を受けよう。そして孤独に戦おう。

 横やりや邪魔は入らないだろうけど、誰か助けに来てくれてもいいのよ?


「はぁ……そういうことでしたら、こちらの用紙に記入してください」


 うむ、バンと用紙をカウンターに叩きつける塩対応。これはもうダメかもわからんね?


 だがそれは今日の話。


 次会うときにはエイミーさんも冷静になって関係の改善が出来るっ!


 と……いいなぁ。


「えーと、なになにぃ」


 名前に年齢、出身地に特技、戦闘スタイルっと、項目は少ないが、下の文章は……なんだ?


 掠れて読みにく……あっ、記入欄終わりに小っさくお前らがどうなろうと一切責任は負わんが命令は聞けとか色々免責みたいなの書いてあるわ。


 これ本当にブラックギルドじゃないの?


 冒頭の署名時点で同意したものとする。って用紙最下部にチロッと小さく掠れた文字で書き記すとか悪質だな。


 重要なことなのに後出し掠れ文字で、受付担当からの説明もなし。ついでに誠意の欠片もない組織に属して本当に大丈夫かしらん?


 まっ、俺に職業選択の自由はないんだけどなっ!!


「書き終わりました」


 用紙を手渡そうとすると笑顔でバッと奪い去る手際、見事だねエイミーさん。


「……はいこちらをどうぞ」


 なにやら書き込んだと思ったら投げつけてきた。ナイスフォームっ!


 ニコニコな表情と言葉に対して動きが合致してなくてボク、泣きそうだよっ! 心折れていいかなっ!?


 んで、これは……手書きで俺の名前が入った木札? あっギルド証か。名前の書いてあるところだけ木の質感が違うのは削って使い回してるのかな?


 名前の裏側は焼き印でなんか書いてあるけど、冒険者ギルドの木札とわかる内容なんだろうな、たぶん。


「それではロバートさんにお渡ししますね」


「えっ? いやちょっと説明はっ!?」


 おおよそテンプレ通りだろうが教えてくれないのは違くない??


 教えてくれないとオイラ依頼を受けるサインとして裸踊り踊っちゃうかもよ? カウンターというお立ち台でかぶり付き席で見せつけちゃうかもよぉ?


「チッ……。ロバートさんをお待たせする訳にもいきませんし、何よりお知り合いから説明を受けられた方がそちらの草野郎も気楽にご質問もできるでしょうし、そうされてはいかがですか?」


 今舌打ちした? というか明らかに俺の対応嫌がってるね、これ。


「まあまあ、そう邪険にしないで説明してあげてよ。私もギルドに雇われているとはいえ、受付は担当外だからね」


 えっ? いや教えてくれるなら別に……じゃダメなんだよ俺っ!


 ギルドの人! それも受付嬢とは仲良……


「チッ!! それでは、面倒ですがご説明します──」


 ……隠すこと無き悪意って初対面でもあるんだね、めっちゃ早口で捲し立てられたわ。


 えー…っと、ランクはGスタートの最高Sランク。受けられる依頼はFからは一つ上まで受けられる、ただしGは試用期間だからランク相応の雑用か常設の依頼をこなすこと、その達成回数でFランクとして本登録される。


 依頼用紙を受付に提示してクエストを請け負うことになるが、常設依頼は受付に言う必要なし。


 雑用依頼は依頼主のサインを、採取依頼は依頼品の提出を、討伐依頼は証明部位を、可能であれば討伐対象の有用素材の持ち帰りで評価と報酬が追加。以上がそれぞれ依頼達成となる条件。


 依頼達成料は本登録のFランクからは商人ギルドに口座が開設されるから基本は振り込みだが、Gランクはその場で手渡しのみ、と。


 それで説明が終わると、ついでにお試し討伐にガルムはいかがですか? とポテト感覚で依頼を押し付け……じゃない、オススメされたワケだ。


 ねぇ、俺のゲーム知識じゃガルムって中盤以降のわりとお強いワンちゃんのイメージなんだけど……?


 これ確実に死にに行けって言われたんだよね? Fランクから依頼を受けられるって言ってたのに……


「エイミーくん、彼は登録したばかりのGランクだから討伐依頼は受けられないよ? それにそれは最低Cランクじゃないと……それもパーティー向け依頼だよ、それ」


 そうだよ! ロバートさんの言う通りだぞこの性悪受付嬢めっ!!


「なに言ってるんですかロバートさん、依頼を受けなくても討伐死にに行くことは出来るじゃないですか?」


 おぅ……もはやお事じゃなくてお事ですな。これ、完全に入ってるよね? 始末リストに。


 もう受付の人は信用できなくなりましたっ!


 職業選択の自由が欲しいです、先生……ロバートさん


「彼はちょっと……かなり常識に疎いけど、悪い子じゃあないから……ないと思うから、そう言わないでマトモに対応してあげてね?」


 おや? ロバートさん、もしや俺の事切り捨てる構えを取りませんでした? 言い直すたびに下方修正入ってますよー。


「嫌です。……と、言いたいところですけど。ロバートさんがそう言うのであれば、通常対応させていただきます」


 こっちはこっちで清々しいほどにロバートさんへの信用オンリーの顔立てしゃーなし対応だな。笑顔が眩しすぎて涙出そう……


「それでは先程で基本説明は終わりましたが、なにかご質問は?」


 質問……あっ、そうだ。


「依頼とは関係なく討伐した魔物って買い取ってもらえたりするんですか?」


「買い取りですか? それでしたら素材として価値のある物をお持ち帰りいただけたら買い取りを行っております」


「そうですか、それならこれは買い取ってもらえますかね?」


 えーと、スペースよし! いでよ金策マっ! 我の財布、暖めたまえっ!!


「んっ? ちょっとイサムくん何を──」


──ドスンッ!!


 あっ、んうおあぁっ?! う、うーむ……地面に接して出したつもりだったけど、垂れ下がった手足だけ接地した状態で出ちゃったか。


 ちゃんと胴体が……というより、出したときの状態をしっかり想定してないと大物は危ないなこれ。また一つ収納の理解が深まったね!


 ……さて、うっかり大きな音を出したせいでギルド内の人たちが固まってるのをどうすべきか?


 ロバートさんは……額に手を当てて俯いてるな、大きい音が苦手な人だったのかな?


 それでエイミーさんは──。


「……………………ひゃあああああああ~~~~っ?!?!」


 椅子からひっくり返って叫んでるわ、よく椅子から転げ落ちる人だなぁ……むっ、もう少し……見えっ!?


 クソっ! 光源っ角度悪いぞっ!? なにやってんのっ!!


 えぇいっ! 色が飛ぶほど強すぎない光よ……っ! 行けっ足元ライトっ!!


「ひぎゃあああっ??!! ひっ光がっ!? なにこれぇええぇえ~~~っ?!」


 ふむ、淡い緑……か。赤毛と一緒に堪能するとさぞ映えることだろう。


「……腰を抜かして怯えている女性に何をしているのかな、イサムくん?」


 ちぃっ?! 邪気が来たかっ!


 あっ…………邪気じゃなくて殺気だったわ。


 にこやかなのに死の恐怖に足が震えてやがるや、へへっ……


 そんな怖い気配発してないで一緒に鑑賞して落ち着こう? あっ、わかった! エイミーさんのおパンツ見てたらイライラしちゃうんだねっ!? このむっつりさ──


──ゴンッ!


「光、消そうか」


「はい……」


 ロバートさん意外と肉体言語も堪能なんだね、すっげぇ痛いのに意識飛んでないもん。むしろ飛んで欲しいくらい痛いんですけど。


「エイミーくん、これは死体だから落ち着いて」


「ひいぃいぃぃ……っ!? クマがっ……し、たい……?」


 うむ、ちと色気に欠けるが怯える姿もまた良──いえっなんでもありませんっ!!


 …………っぶねぇ、なんなのロバートさん、俺の考え読んだの? いきなりこっちに視線飛ばしてきたぞ。


「それで、ちょっとそのクマを片付けてくれるかなイサムくん」


 あっはい。バイバイ、クマさん。


「うん、じゃあさっそく移動して話し合お説教しようか、イサムくん?」


 あっはい。バイバイ、イサムくん。


 あっ腕取って強制連行なんですね。


 どなどなどーなぁどーなぁ……連れられてーくーよー……


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