第26話 オレはしょうきにもどった! ってリアルで言ってたら既に正気じゃないよね
あー……説教長かったぁ…………
連行されてマイホームがプリズンになる。なんてことにならなくて良かったけどさ、そこは緩い世界で助かったけどさぁ……
なんで罰金はしっかり取っていくのさっ! 払わなかったら牢屋にただいまだから払ったけどさっ!!
あぁぁぁ……ロバートさんから貰ったお金、ほぼ全部溶けちゃったよ…………
さすがにロバートさんからまたお金を集れないからなぁ、現状唯一頼れる人なんだし、良好な関係には金の無心はいかんよな。
まぁパーンしたおっちゃんの金がまだあるとはいえ、ロバートさんから貰ったのに比べれば半分もないんだよなぁ……あっ! そういやまだ討伐の褒賞金貰ってない!
あのときはゴタゴタで有耶無耶になったけどそれを貰えば……って、どこで貰えばいいんだ?
あっ、ロバートさんに聞けばいいかな? てかどれくらいの懸賞金かも知らないんだよな、俺。
手間賃くらいだったら焼け石に水、だよなぁ……
はぁ、とにかく冒険者として働けばなんとかなると信じよう。
よしっ! そうと決まれば冒険者登録しに行くか、そろそろ日が傾き始めてるし、急がんとな。
ギルドは……あれか、確かに近いしデカくてわかりやすい看板だな。てか2階より上の高さとはいえ、大通りに突き出して吊り下げられてるじゃんあのデカ看板。
落ちたら危なそうだけど、そこは緩いのかよ……。あんな危険物ぶら下げるの許すくらいなら俺の罰金返してよっ!!
いや、違う違う。そんなこと考えてもお金は返ってこないんだし切り換えていこう。
人混みの中を進むこと数分、3階建ての冒険者ギルドにたどり着いた。
冒険者ギルドの大きさは周囲の建物の数倍あり、この大通りで一番大きな建築物のようだ。
その規模の建物に次ぐのは大通りの反対側にある、袋に硬貨の看板を掲げた商業ギルドらしき建物くらいだろうが、そちらは周囲の倍程度だった。
その冒険者ギルドの入口の頭上には、通りに掲げられた看板を縮小した物が取り付けられており、人の出入りが激しいためか、今は扉を開け放たれた状態に固定されているようだ。
おぉ……これぞファンタジーっ!! 鎧に武器持ったのや杖持ったのがゴロゴロいるぞっ!
っと、入口前でおのぼりさんしてる場合じゃねぇや。とっとと中に入ろ……はっ! ここはテンプレ初回絡まれイベントの危機っ!?
どっ、どうしよう……チート野郎なら澄ました面でイキり倒してドヤドヤドヤサと入れるだろうけど、俺はクソ雑魚ナメクジ判定を食らってる上に戦えるスキルもロクにないただの草。
やっべぇ逃げたい草食べた……あっ、ずっと食ってたわ。モサモサ……
いっいや、ここで逃げたらオイラの生活ままならぬのですぞっ! 覚悟を決めろっ!! モサモサ……
とはいえこの猛獣の巣窟を無事に切り抜けられるか……? 怪我したくはないし、できることなら絡まれたく……あっそうだ、あれやれば絡まれないかな?
これもまた本人が知ることではないが、口から細長い草を垂れ下げながら食べ続け、食べきるとどこからともなく再び草が現れなお食べ続けるイサムは、かなり奇異な存在として冒険者たちの目に止まっていた。
当然そのような者にわざわざ絡みに行く者などそうそう居らず、そのまま入っても遠巻きに見られるだけだったのだが……
そうとは知らぬイサムは受付カウンターで書類作業をしているらしき、手元に視線を落としている赤毛の受付嬢に近づいていった。
──ガサガサッ
「あのーすみません、聞きたいことがあるんですけどー」
「はい、どうされ……? ひやぁあああぁっ?!?!」
「うおっ?!」
えっなになにっ!? なんで悲鳴上げてんの? てか椅子から転げ落ちたけど大丈夫?
──ガサガサッ
「あのー、大丈夫ですか?」
「なっ、なんで草が生え……草が喋ったっ!?」
おっ、なんやー? 草が喋ったらいかんのかぁ~??
「草が喋ってなんで悪いんだっ!? 俺は草だよっ!!」
お前も草まみれにしてやろうかっ?!
草原の草生やしまくった俺のように大量の草に包まれ考えを改めるがいいっ!!
──ガサガサッ
「いっいえっ! 決して草が悪いとか……ていうかあなた人じゃないですかっ!? いきなり変なことしないでくださいっ!!」
さぁ草よ生え……は? 俺が……人……?
いやいやっ! 俺は草の者っ!! 俺は人なんかじ…ゃ……なら、なんで俺は草と名乗らない? なんで俺は〝者〟などと付けている……?
なんで……ぐあっ!? うっ……うぅ……あ、頭が…………っ!
「おっ……俺は、人間……なのか?」
「はぁ? どこからどう見ても人間でしょうが。頭は人とは思えない出来のようですけど。
それよりこの草はなんなんですか、あなたがこんなに草を持ち込んだんですか?」
俺は、人……そうか。人間なのか…………
そう、俺は人間だ。ただの草を愛す……いやっ違うっ!!
「俺は正気に戻った……っ!」
「はあぁぁぁ? いきなりなに言ってるんですか? それよりこの大量の草について答えてくださいよっ!」
危なかった……。何故かは知らんが意識が草にまみれそうになった……
なぜ俺は草の者などと思っていたんだ? 草なんぞに成り下がったつもりも、なりたいなど微塵も考えたこともないというのに……
まさか、俺のスキルが意識を乗っ取ろうと悪さをしているのか? となるとやはり草食のスキルだろうな。
思い返すとなぜかクソ不味な草を躍起になって食らおうとしてたし、たぶんあの頃から意識の乗っ取りが始まっていたのだろう。
それにしても草食のくせに草に成り下がろうとしてくるとはいったい何故……? モサモサ……
むおっ?! くっ、いつの間にかまた草を食み出して……!? まさかまだ意識を乗っ取ろうとしているのかっ!
これは意識して草を警戒せねば。
とりあえず早く登録を済ませて、相談するためにもロバートさんを探そう。
「ありがとう受付の人、今度お礼に受粉させてくれない?」
「は……? あの、頭は大丈夫ですか? それと鏡を見たことありますか? 自身を見直してみることをオススメしますよ。
話がそれだけでしたらそちらの草をお持ちになってお帰りください。お帰りはあちらです」
ぐおっ?! クソっ静まれ俺の繁殖欲よ……っ!
じゃなくてマジで乗っ取りにきてんなぁ……ホントよ? 可愛い娘に無駄にフラれ貶され傷ついたからの言い訳じゃないよ?
どうしよ、ロバートさんに相談したからといって解決できるかこれ?
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