第23話 バカになったっていいじゃない
「さて、それじゃあ打ち合わせが終わったことだし、エミリアくん鍵を」
ん? なんで鍵が必要なの? 俺別に拘束されてないんだけど……
「えっ? 持ってませんけど?」
あっ、牢屋の鍵ね。
無罪が確定してから改めて鍵を取りに行くことになってんのか。にしてもエミリアちゃん、君……もしかして?
「はぁ……君はもう少し考えることを覚えるべきだよ? 君が鍵を持っていないことなんてわかっているよ、なら彼はどうやって牢から出たと言うんだい?」
「うん? それはもちろん溶けた鉄格子を跨いで?」
……強制的に共犯者になるのがこの娘で大丈夫かしらん?
「それは牢屋から出た後に君が挑発した結果だよ? それに、ここの鍵は厳重に利用記録をつけて管理されているはずだろう? このままだと彼は出られるはずもないのに外に出られたことになるんだよ」
「あっ」
「わかったら早く取りに行く」
「わかったっ!」
たったか走り出したけどすげぇ不安。モサモサ……
「大丈夫なんです、あれで?」
「うーん……。悪い娘ではないんだが、短絡的というか頭を使うのが得意でないというか……後で改めて言い含めておくよ」
脳筋な草の者、そういう者も存在するのか。
「それで、ここを出たあとのことだけどね。しばらく生活できる程度の資金を渡すとして、君が住まう場所は冒険者ギルド近くの場所に空きがあったはずだからそこでいいかい?」
「えぇ、そこで大丈夫です。すみませんがよろしくお願いします」
そういや今の俺には住む場所すら無いんだった。マジでロバートさんには頭が上がらんな。
「なら、あとは君のふ──」
──ダンッ!
「取ってきたぞっ!」
はやっ!? ……えっ、階段降りる音がしなかったけど、エミリアちゃん……まさか飛び降りたの?
……脳筋パワー全開過ぎて空前絶後の不安に呑まれそう。助けて、草さま。モッサモッサ……
「……早かったね、エミリアくん」
そう頭が痛そうに額に手を当てるもんじゃないよ、最終防衛装置ロバートさん。
「ああっ、そうだろうっ!」
キツそうな性格してそうな顔立ちのクセして褒めて欲しそうにドヤ顔してんなぁ、このアホの娘。
「……ならあとは、しばらく時間を潰してから表に出るだけだね」
「うん? せっかく早く取ってきたのだから早く上がらないか?」
モッサ……モッシャモッシャ……
「すぐに上がると君と彼がいさかいを起こしていた時間がなくなるだろう? この待ち時間はそのためのモノだよ、エミリアくん……」
頑張ってっ! ロバートさんじゃなきゃエミリアちゃんを制御しきれないよっ!! モッシャモッシャ……
「なるほどっ!」
モシャモシャモシャモシャ……
「あぁ、それとイサムくんは鉄格子に水でもかけてもらえるかな? 早く冷えたように見せたいからね」
「モア? モシャモシャ……はい。ウォーター」
さくっと水を鉄格子付近にぶっかけて……っと。こんなもんかな?
「うん、さすが魔法だね。発動の早さもだけど水量も範囲も思いのままなんだねぇ」
見事に観察対象を見る目だね、ロバートさん。まぁ資金やら住み処の面倒を見てくれるんだし全然ありだけどね。
「それで、あとはイサムくんの服だね。さすがに枯れ草を身に纏った姿で街をうろつくわけには行かないからね」
んっ、枯れ草?…………うおっ!? マジで枯れ果ててんじゃねーかっ!
えぇ……なにこれ、全然隠せてないじゃん。もう丸見えだよ、こんなので街なんて歩けない、てかこんな格好で人前に……
「あっ」
「ん……なあっ?! おいお前っいったいななっ何を考えているっ!?」
いやはやお恥ずかしい。まぁそう怒んないでよ、エミリアちゃん。
「ははっいやぁ~、彼はとてもシャイなんだ。だからエミリアちゃんに照れているんだよ」
おやおや、なぜロバートさんはあきれた目で俺を見ているんだろうか? 彼も俺と同じ状況に立たされれば同じような目に遭うというのに……これが年の差か?
そんなことより、この子はエミリアちゃんに危害を加えるつもりはないよ。な?
ピクピクっ。僕、悪い子じゃないよ! ほらね?
「なぜ照れてそうなるっ?!」
そりゃ脳筋とはいえ美人さんに見られてるなんて照れるじゃん? この子は悪くないよ。
「この子は照れ屋だけど、とても礼儀正しいんだ。だからきっとエミリアちゃんに挨拶したかったんだよ」
この子なりの頑張りを認めて、見届けてあげて。
ほ~ら、草~の中からこんに~ちわ~。
「せんで良いっ!! とっとと元に戻すか隠せっ!」
そんな顔を真っ赤にして怒られてもなぁ……むしろこの子が張り切っちゃうよ、そんなの。
「う~ん、今はちょーっと無理かなぁ……? チ○チ○てバカになることがありますよね、ロバートさん?」
あっ、関わりたくなさそうにロバートさんに顔背けられちゃったよ。
まぁ、そういうことだよエミリアちゃん。もう俺にはこの子を止められないのさ!
「いいから手で隠せっ!!」
あっ、なるほどね。顔を隠してるエミリアちゃんみたいに手で隠せばいいのか。
ところで、俺が隠していないことが見えているってことは……
「それにしても、エミリアちゃんも顔を背けるなりすれば良いのにぃ……。顔を手で覆ったフリをして隙間からガン見するとか、エミリアちゃんのエッ──」
俺に──イサムにそこから先の記憶は、目が覚めるまで存在しない。
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