第22話 くっ殺(す)騎士エミリア



「それじゃあ冒険者になってからの基本的な方針について伝えておくね」


 はーい! よろしくお願いしますロバートせんせー。


「まず最初に勧めたように活動は一人で動くこと。ただしそれは魔法以外の戦闘に活用できるスキルを身に付けるまでの一時措置だからね?」


 ふんふん、つまり魔術なり武術なりのスキルを修得目指して動けってことですな。


「それで冒険者はランク制度があって最初は簡単な雑用や討伐依頼を請け負うことになるんだけど、イサムくんでも対処可能なモノを見繕っておくからね。

 それと低ランクの討伐対象の狩り場は他の人もそれなりにいるからね、魔法は弱めに決まった威力と形状で使えばバレないかもしれないけど、危険な状況でもなければ魔術と誤魔化せる特定の型を覚え込むまで極力使っちゃ駄目だよ?」


 ランク制度なのはテンプレとして……魔法無しで戦えるかしらん? まぁ最悪どこか人のいないところでレベルを上げて物理で殴ればイケるだろ!……イケるよな?


「とりあえずは今話した方針で普段使いできるスキルをある程度覚えて、能力を一般的なところまで引き上げ、日常で困らない程度にこちらの常識を知っていくのを目標にしておこうか。

 冒険者なら最低限の人との関わりで活動している人もいるから、たまに常識外れな言動をしても簡単に離れていけるところも君には都合がいいんだよ。

 それで目標を達成したら改めて冒険者を続けるか、別の仕事に就くか考える。というのでいいかな、イサムくん?」


 いいもなにも完璧に俺向けの最適プランや~ん! やりますやります!


「はい、その方針に従います!」


「そうかい、それじゃあそろそろ……下手な狸寝入りはやめようか、エミリアくん?」


「うええっ?! はぁーい……」


 えっ? さっきから気絶しっぱなしかと思ってたけど意識あったの?


 てかこの娘って俺を取り調べだかで来てたんじゃないの? 2、3言葉を交わしたくらいしか覚えがないんだけど……


「それじゃあ君はキチンと尋問を行って、その結果彼は協力的かつ無実であった。疑いが晴れて牢を出る際に君は彼が門番に伸されたことをからかい挑発した結果、鉄格子が溶け落ちた。

 簡易鑑定装置は不調だったらしく、彼の正確な能力は魔力に偏ったものだった。ただし不審なスキルはなく、熟練の魔術師だったため鉄格子が溶かせた。

 そういうことでよろしくね、エミリアくん?」


「えっ……ええっ?! ちょっ、なんですかロバートさんっ!! 嘘の調書だけじゃなくて鉄格子の事も私のせいにしろっていうんですかっ!?」


 あっ、そういや鉄格子とろけちゃってたんだっけ。


 でもそれをエミリアちゃんに罪おっ被せていいもんなのか?


「おや、いいのかい? 本来であれば牢の様子がおかしかった時点で引き返して上官に報告して、応援を呼んでから対処しなければならなかったんだよ?

 それに君がここでしていたことって、腰を抜かしていたか、寝ていただけじゃないかな? それを正直に報告する?」


 そういやロバートさんが居るとはいえ、騎士は彼女一人でしかも若手っていうのはおかしいよな? 元々は鉄格子越しに尋問する予定だったのかな?


 あっ、ステータスやらスキルを開示することになるから、冤罪だった場合を考えてなるべく人数を減らしてるのかな?


 どうもこの部屋の中なら、危険なスキルを使えないはずの安全な仕事だから最低限の配慮として最少人数で来たのかも。


「うっ……で、でも魔法ですよっ!? それに未知のスキルまでっ! そんなモノを報告せずに──」


「それなんだけどね、もし報告すると大変なことになるかもよ? そのスキルそのものは修得していようと別に犯罪って訳じゃあない、ただし彼は注目の的になるだろうね」


「そっ、それなら別に報告したって私には関係は……」


「でも君がこの事を報告することであらゆるところが浮き足立つだろうね、その結果この街は大いに荒れることだろうね。

 なにせ彼の存在を公にすれば、彼の持つ知識を、力を、価値を求めて手に入れようとあらゆる組織が動き出すことだろう。

 君もこの世界の人間であればどれだけ人類が魔法を求めていたか理解できるだろう?」


「ううぅぅ……」


「それに、彼を求める者たちが真っ当な組織だけとは限らないんだよ? 犯罪組織だって魔法なんてモノを手に入れられるなら手に入れたいさ。

 変幻自在な魔法でならこれまで以上に仕事が捗ることだろう。でも魔法の正確な情報を持つ者は邪魔だろうね。

 そのような組織が動いたときに真っ先に狙われるのは私と君だ、なにせ彼の魔法含むスキルの情報を根掘り葉掘り聞き出した情報を持っているからね。

 手札を対策を取られずにより有効に使える環境を作るのに邪魔な存在なんだよ、既にね」


「ああぁあぁぁっもうっ!! 性格が悪すぎるっ! 私の意識があったの知ってて放置して逃げられないようにしたなぁっ!?」


 良い性格じゃないか、誘いにお乗りよ。


 ──地獄の片道へようこそっ!


「君が考え無しに動いた結果だよ。階段を降りたところで引き返していたらこの手は取れなかったよ。

 もっとも、その場合は今話した未来が待っていただろうけどね」


 エミリアちゃんナイスアシストっ!!


「なら……っ! この男をたたっ斬るっ!!」


 うえっ?!! ちょっと待てっなんでそうなったっ!? ビビりの君はどこ行ったのさっ! あっ剣を拾うなっ!!


「それでも良いけれど、その場合私が正確な情報を話すよ?

 それと、私がそれを許すとでも? 君が騎士だとしてもまだまだ新人に負けるほど私は弱くないよ」


「なっ?!」


 おおっナイスロバートっ!! アホ女の動きが止まったぞっ!


 てか、もしかしてロバートさん実は強いの?


「その場合君は無実の彼を殺害した者、それも莫大な価値を持つ彼をね。そうなれば君は騎士として……いや、この国に居られるかすらもわからないだろうね。

 なにせ彼を研究することによって人類は魔術ではなく、魔法を手に入れられる可能性が出てきたんだからね。

 だがそれを君の一存で消滅させたとなれば、それは言わば人類への反逆とも取られかねないからね」


 えっ、魔法って魔物専用スキルなんじゃ……あっ俺が使えてるんだからそうじゃない可能性もあるのか。


 なんかこっちの世界に転移さえすれば魔力が宿って使えるみたいなこと駄女神が言ってた…し……って、まさか身体作り替えられてないよな? 俺の身体こっちの人と同じ作りだよな……?


「ううっ……だっ、だがっ! それならこのまま隠蔽するのも人類への反逆じゃないのかっ!?」


「違うよ? はっきり言って彼は魔法が使えるというだけで強くはない。そんな中で公表すれば彼は自身で身を守ることすら困難だろう。

 今周囲が騒がしくなれば彼は自身を鍛えることも難しくなる、そうなれば彼を求める組織は与し易い内に手中に収めようと躍起になるだろう。

 それに彼が強くなって公表するにしろ、そのまま隠れ住むにしろ、私や彼が調査した結果は後の世に発表させるようにするさ。彼の死後の世界なら争奪戦なんて起こりようがないからね。

 もっとも、誰でも魔法を修得できるようになればとっとと公表してしまうけどね。そうなれば彼はただの魔法の先駆者というだけだからね」


 うむ、死んだ後なら好きにせい。


 魔法なんて面倒事さっさと片付け。そして駄女神にピカドンしてくれゼムス様。


「と言うわけで大人しく泥を被ってよエミリアくん。なぁに失態の数々が最後にやらかしただけになるだけさ。

 それに、彼の魔力値は今回の嫌疑には無関係だったから君が見落として挑発した結果、鉄格子が溶けた。けど、そのときに私が珍しいものを見られると止めに入らなかった。と多少はフォローしてあげるさ」


 勝負あったな、俺は草食ってくるわ。モサモサ……


「うぅ……納得できんが、了解した……」


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