第21話 異世界に訪れし者の宿命



「落ち着いたかい、イサムくん?」


「えぇ、俺の怒りなんぞゼムス様に比べればちっぽけなモノなので」


 これからも俺の怒りを代行して御届けいただけますよう、どうぞよろしくお願いします。


「それで、さっき君が叫んでいたことで気になったんだが……。君の魔法スキルはあの邪悪が関係しているのかい?」


 異世界あるあるならばここはすっ惚けるなり、嘘を吐くなり誤魔化すのが正解なのかもしれない。


 だが俺にはもう後がないのだ。


 なにせ手に入れたスキルはパチもんか、使うことを制限されたゴミ屑スキルしか役立つ手札がないのだから。


 もはや嘘を吐くことで手に入るメリットなど何もない、なによりこの世界の常識がわからなさすぎる。


 それならば協力的な人がいる内に、手助けしてもらえるように身の上を話して、信じてもらえるよう努力すべきだろう。


「ええ、俺はこことは違う世界。ゼムス様が管理する異世界、地球からイーリスに手違いで連れ去られて、帰ることもできず死ぬことを強要されそうになりまして、唯一生き残れるここに来ました」


「地球、死……そうか、こちらで生きるために異世界言語を……。それでスキルに関しては?」


 えっあっ、レベル表記がないから異世界言語表示されてるのすっかり忘れてた。


 見せたときから隠しようがなかったみたいだけど、まぁ今バラしてんだし問題なし!


「スキルはこちらに転移……送られる前に自分で選ぶように言われて選択したものです」


「なるほど、そこであの邪悪が魔法を使える世界だと説明した、と。意図して説明を省いたのかは知りようがないが悪質だね。

 このような世界にしておいてやはり反省もないのか、あれはどうあっても人類の敵のようだね……

 それより魔法に関してはわかったけれど、それ以外のスキルは? 正直なぜこのスキルを選んだのかわからないモノばかりなのだけど……」


 あの駄女神、この世界に対してなにやらどえらい事やらかしてる臭いがそんなことは今はどうでもいいな。


「提示されたスキルの表記は俺でも読めるように日本語……地球の一言語で書かれたモノだったんです。けれど翻訳が不完全かつ並びがバラバラで、それでいて読みが同じでも意味が全く違うスキルも同じ表記だったようで……」


「それで意図せず魔物が持つスキルや、訳のわからないスキルを取得したのか」


 やっぱりこっちの世界でも訳のわからないスキルなのか、これらは……


「えぇ、本当なら近接戦闘向きなスキルや金策を行えるスキルを選んだつもりだったんですけどね……

 それにスキル選択の上限数がわからないまま選んでいたので、もっと選べていたり見直しをしていたら取らなかったスキルもあるんですけど。

 あの腐れ駄女神によってスキルの選択上限に達したら、ぱぱっとこの世界に送り捨てられました」


「そうだったのかい。にわかには信じられない話だけれど、スキルの数々が人に修得できるとされていないモノや異世界言語まであるんだ。少なくとも私は信じるよ。ずいぶんと大変な目に遭ったね」


 おっしゃ信じてもらえたっぽいっ!!


 あとはこっちの世界で生きていくための手助けなり常識プリーズっ! あっ、常識といえば……


「あの、俺でも鑑定って修得できますか? 元々こっちの世界で生きるのに役立ちそうだったので取得したつもりだったスキルなんですけど」


「え、鑑定かい? うーん……修得自体は可能だと言えるけど……。君が想像しているようなものじゃないと思うよ?

 鑑定って言うのはあくまで自分の知識量に基づいて、対象を持ちうる知識で調べあげられる事柄に対してのみ、鑑定で時間をかけずに知ることができるというモノだからね。

 知識を蓄えて目利きを鍛えていけば修得できるけど、それをするくらいなら普通に広く浅くこちらの事を学ぶ方が君のためになると思うよ」


 は……はあああっ?! なんてこったいっ! 間違えずに選択しててもこっちの知識がないと役立たずのゴミスキルだったのかよっ!!


 きっとあの駄女神は今ごろピカドンしていることだろうけど勧めておいてなんじゃそりゃあっ!!


 こんなことなら鑑定じゃなくて艦艇でよか……いや、どのみち使い道のないゴミスキルだわ。無視すべき罠スキルだったか。

 

「それで君へのお勧めできる仕事だけど……。今は冒険者としてこちらの常識を学びつつ、強くなっていくことがいいと思うんだ。ただし活動は一人で」


「冒険者ですか」


 転生、転移者の宿命から逃げられなかったよ……


 そんなことより一人で? スキルの事を隠す必要があるとはいえ、ソロで冒険者って危なくないか?


「あぁ、正直に話すと君のスキルを調べさせてくれるなら、私が匿い養ってあげても良いとさえ思っているんだよ。

 もし君の事を公表すれば研究のためにどこぞの施設に連れていかれるだろう、けれどそこに私が関われるかはわからないからね。

 だがもし私が匿えば君を詮索する者が現れるだろうからね。これでもこの街の筆頭鑑定士として私を探り、弱みを握って利用しようとする者たちのいる身でね。その上でスキルを隠すにはどうしても君の自由が制限されるだろうね」


 えっ? もしかしてロバートさんは、俺のパパになってくれたかもしれない人だった……?


 チクショウっ! どこのどいつだっ俺の素敵な扶養家族ライフを台無しにした大バカ野郎はっ!? 見つけ次第とっちめてやるっ!!


「そうですか……わかりました。それならその詮索する者を冒険者として潰して回り、安全を確保してから養子縁組して家族になりましょう。ロバートパパ」


「いっいや、そういうことじゃ……パパっ!? なっ、なにか勘違いしてないかい? あくまで君がこちらの世界で生きるのに必要な知識と力を身に付けるまでの一時保護だよ?

 それに冒険者は荒事を扱うことが多いけど、明確に罪もなければ現行犯でもない相手に変なことはしちゃ駄目だからね?」


 む、なんだ。養父として俺を一生養ってくれるワケじゃないのか……


 まっそりゃそうか、俺だって好みの女の子でもない限り養ってあげようなんて思わん……あっ、それって結婚か? でも草が結婚なんてするか? いや、草ならヤり逃げ一択だわ。


 そう考えると草紳士ってクソやなオイっ!


 けど、悲しいけど……俺、草の者なのよね……


「話を戻して、冒険者を勧める理由だけど」


 あっ、まだ話の途中だったわ。


「まず利点……と言うほどではないけど、能力問わず誰でも冒険者にはなれるから身分証が得られやすいということ。

 ギルドに世話になっておいて憚られるけど、なれはしてもその後の生き死ににはあまり興味がない組織なんだよね。どこまでいっても自己責任で終わらせるんだ」


 う~ん……危険な割に保証無しなブラックなところのようですな。そんなところで働けと?


「ただし、別にギルドは冒険者を無駄に死なせたい訳じゃあないよ。冒険者の死因の大半は身の丈に合わない依頼を選んだことだよ」


 まぁそりゃそうでしょうよ。無茶しなければ死ぬことはないだろうよ。


 要は依頼を選べば大丈夫ってことか?


「それでここからは内緒だけど、私は冒険者の殆どをこっそり鑑定していてね。選んだ依頼に対してどの程度の実力の者が死ぬか大ケガをして引退していくのかを確認していたんだ。

 まぁ大っぴらに鑑定していたなんて言えないから、たまに忠告くらいはしてあげたけどね。そんな訳で実力相応な依頼を教えてあげることができるんだ」


 おぉう……黒い、黒バートさんだよこいつぁ……


 たぶん忠告された人は観察対象として興味のあった人なんだろうなぁ……。見捨てられないよう努力しよう。モサモサ……


「それに実力不足なのにその依頼を受けられたっていうのはね、ギルドから見放された者だけなんだよね、実は。

 素行不良なギルドで制御しきれそうにない、って人以外は受付でその依頼をやんわりお断りしてるんだよ。

 まぁたまにその対象じゃない人がそれに気付かず死にに行くこともあるけど、そういう人はどのみち長生きできないだろうし、早いか遅いかの違いだね」


 はぇ~……やっぱ異世界なんすねぇ。ロバートさんみたいな優しそうな人でも生き死にが軽いこと。


 そしてそれ以上にギルドの間引きが酷いこと。やんわりとなのは注意力や危機察知的な能力をギルド側が観察するためとかなのかな?


「つまりは受付で言われることはちゃんと聞いていれば問題ないよ、それに収入の割に比較的楽な依頼も中にはあるからその辺もお勧めの理由だね」


 なるほどね、それならギルドに嫌われてなければソロで活動しても無茶なら止めてくれるのかな?


 身分証も金も手に入るしそこまで悪い選択じゃなさそうだな、これくらいのサポートできるように少しは見習えや駄女神。


「それにギルドなら私と接触してもただの知り合いでしかないからね、怪しまれずに手助けできるよ。

 もっとも、そこまで大々的に手助けはできないけど、相談くらいならできるし、なにもないよりはマシだろう?」


 事情を知るアドバイザー付きか、それは助かるな。


 まぁぶっちゃけ珍しいスキル持ってるモルモットだから助けてくれるんだろうけど、理由があるとはいえ俺から自由を奪わず助けてくれるってんだから、この幸運には感謝しておかないとな。


 ありがとうゼムス様。死に腐れイーリス。


「ありがとうございますロバートさん。俺、冒険者になります。それと、このスキルでわからないことや気になることがあったらそれも相談させてもらってもいいですか?」


 俺が返せるものなんてこのくらいだし、誰にでも相談できる事じゃない上にこっちにも得があることだしな。


 なにせどこに使い道があるのかわからないスキルばかりだからね、ブレーンは必要よ。


「もちろん、私にとっては願ったりだよ!」


 うむ、ロバートさんも喜んでくれてるし、これで少しは俺の未来は明るくなったな!


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