第19話 とある鑑定士の後悔



 ロバートは後悔していた。


 特級牢の鉄格子を溶かしてしまえる実力を持ちながら、その能力は年端も行かぬ子供のような力しか持ち得ていない、なんともチグハグな彼──イサムに興味を持ってしまったことを。


 このレベルとしては一部能力が高いようだが、それでもそこらの大人にも劣る程度の彼がそれを成し得たのはスキルに秘密があることなどわかりきっている。


 鑑定士というのは多くの知識や品物、生き物などを学ぶことでそれぞれ特定の分野の鑑定が行える鑑定スキルを修得し、その分野を学び成長させていく。


 そんな鑑定士の中でロバートはひとつの分野に留まることはせずに知識を求め、多岐に渡る鑑定を修得し、あらゆるものの鑑定を行える完全なスキルに昇華させた世界でも数少ない総合鑑定士が彼、ロバートなのである。


 そのような人物であるため知識欲は貪欲で、この世界でのタブーとも言える裏家業や騎士団のバイトは収入を得るためでなく、知識を得るのに都合が良かったからに過ぎないという、業の深い鑑定バカなのだ。


 鑑定とはそもそも自分の中に知識がなければ、鑑定してもそこの情報は抜け落ちて不完全なものとして受けとることになる。


 だが何かが抜け落ちた。ということだけは当人にはわかる。これまでは抜け落ちた情報の答えを探し、再鑑定して答え合わせをし続けていた。


 そのためロバートは未知なるものを識りたがる、できることなら鑑定などではなく直接そのステータスを──スキルを見る機会を得て、より理解を、知識を深めていきたいと思い続けていた。


 そんな彼に今回垂らされた釣糸──イサムは極上のエサである。


 自身の知り得るスキルの中にあの鉄格子を部屋の中からどうにかできるものなど寡聞にして聞いたことがなく、確実に未知のスキルであることが伺えるのだ。


 例え今この時、イサムにスキルの判別ができるか問われる前に時間が戻ったとしても、ロバートは後悔しようとも再び同じエサに食らい付くだろう。


 だがしかし、彼のスキルは──ほぼ全てのスキルが未知のスキルなのはどういうことなのだろうか?


 いや、正確に言えば知っているスキルも数多く存在している。


 だが人種族がこのスキルを所持している者など、どの文献にも記載されていないはずだ。


 もしそのような存在が見つかっていれば大騒ぎとなり、とっくに知れ渡っているはずだ。


 仮にそのような存在がいたとしても、実験動物のように扱われる事を厭い、隠れ潜んで生きていたことだろう。


 なにせこれまで魔物にしか使えないとされた、かつて人類が追い求めたスキルの数々なのだから。


 その修得方法は? その効果は? その有用性は?


 ……それだけでも情報量の多さ、重さに頭を抱えたくなるのだが、その中でも異彩を放つ情報。


 エクストラスキル──異世界言語。


 これはいったいどういうモノだろうか? 異世界とはそのままこの世界とは異なる世界ということはわかる。


 だが言語とは? それはこの世界とは異なる言語に関してのスキルなのだろう、ならその効果は?……思い付くことなど言語を解せるようになるくらいしか想像できない。


 ならば彼はどこでそれを修得し、それを活用したのだろうか?


 ……そういえば彼はあの邪悪な存在によって、この世界に送り込まれたようなことを言っていたはず。だが手先としてはあの数値は……


 しかしあれが世迷い言の類いでなく、事実だとすれば──。


 興味は尽きない、知識は欲しい。


 だが彼は──イサムは自分の手に余る存在である。


 そう、改めて認識し、それでもなお識りたい。と、思う自身の己の業の深さにますます後悔を深めていくロバートであった。


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