第15話 異世界文明的生活初日を終えて
皆さんこんにちは。俺は異世界文明的生活初日の夜を塀というか鉄格子の付いたお部屋の中で過ごした外来植物、草のイサムです。
なんと言いますかランプの僅かな明かりのみの薄暗い場所に放り込まれて過ごす内に無性に光合成がしたくなる今日この頃、皆様はどう過ごされていますか?
俺は現在、草を食べ終わると収納内の草を無意識に口の中に呼び出しモサモサしていることに気がつき、自分自身に驚いているところです。モサモサ……
この草オートリロード機能どうやって止めればいいんだろうか? モサモサ……
収納内にあるのは草原で採取した細長い草しかないので、食べ終わってもデローンと足元に垂れ下がる草が継ぎ足されるワンコ草が終わらんのです。モサモサ……
今後普通の食事の際も強制的に草がねじ込まれるのかしらん? まぁ食べられるのだし一緒にモサモサすればいいか。モサモサ……
まぁ最悪一口サイズの草を収納に入れておけばいいか。モサモサ……
それにしても俺はいったい何をやっちゃったんだろう? やったことなんてクマに下克上して、兎に下克上されて、汚ねぇ花火したくらいなのに……
というかいつまでここに放置されんの?
茶髪のタックルで気絶したけど、たぶんそんなに長いこと伸びてた訳じゃないと思うんだよね。なんせここに投げ込まれたときに意識取り戻したからね。
この街?に辿り着いたときにはもう夕方頃だったし、最悪取り調べ的なのは明日の朝とかかなー? って思ってたけど、体内時計的にたぶんもう昼頃なんだよね。
ついでに飯も持ってきてくれないのよ、この世界って囚人虐待が当たり前なのか? 冤罪でこの扱いだったら覚えてろよ。
もうね、誰も見回りにすら来てくれないから暇なのよ。昨日の夜から飽き飽きしてたからまた瞑想やってたのよ。
おかげでスキルは鍛えられたんだけどね、ちょっと困ったこともあってね。まぁ対したことないっちゃないんだけど。
瞑想訓練初日は手狭な寝られる空間を作っただけだったから、使わないようにしてたスキルを今回は重点的に鍛えたんだよね。
そうだね、火魔法だね。
鍛えられたのはいいんだけど、瞑想しながらだったから朝になるまで事態に気づかなくて目を開けたときはびっくりよ。
なにせ壁は焼け焦げてるし、鉄格子はドロォリやらグンニャリやらペターンしてるのよ。
ここ4畳ほどの手狭なお部屋なんだけど、出入り口が横幅1.5メートルくらいある鉄格子の扉のせいでとても解放感溢れる空間となっております。な感じなんだよね。
なのに毛布すらなくて夜は肌寒かったんだけど、瞑想を始めると寒さを忘れて没頭できてたから、あぁ……これが無我の境地か……。なんて思ってたのに、物理的に暖まっただけみたい。
まったく、危なくないように鉄格子炙っていたとはいえ、素人の火魔法程度でとろけるとか柔なヤツめ。
そんなワケで朝になって目を開けてからずっとどうしようか、って感じなのよ。なんせ普通に出られるくらい溶けてるからね。
「つーか誰も来てくれないとか俺忘れられてない? モサモサ……ちょっと誰かに聞いてくるのもありか……? モサモサ……」
──キイィィ……
「ん? モサモサ……して、ようやく誰か来たのか?」
カツカツと階段を降りる足音?が近付いてきたが、鉄格子の惨状に気がついたのだろうか、一瞬立ち止まったのちにイサムの部屋まで慌ただしく駆け寄ってきた。
「まさか脱獄かっ!?…………草?」
そうです、草です。
草がお行儀良く草モサモサしてるだけだよー。モサモサ……あっ、俺同族を食ってることになるのか……?
まぁいいや、俺の養分になれ。モサモサ……
ところでこの薄緑の髪の女誰? なんか目に優しい髪色に親近感を覚えるんだけど、もしかして同族なのかな?
ちょっとキツそうな性格してそうな顔立ちしてるけど、なかなかに美人さんだ。同じ草の者として仲良くなっておきたいなぁ。モサモサ……
ヘイ彼女、ちょっと受粉しない?とか言えば仲良くなれたりしないかな?
いやさすがに初対面でそれは馴れ馴れし過ぎるか、というかセクハラだわな。
あっ、ちょっと待てよ? そういえば草って……受粉なの?
今まで草の繁殖方法なんて気にしてなかったけど、花みたいにわかりやすくパッカーン御開帳っ!ばっちこーい!! なのと見た目からして違うけど、アイツらどうやって増殖してんの?
これはいかんぞ! 草の者として知っておかねば!!
だが、そのようなことを誰から学べと言うのか……そうだっ! ここにはもう一人草の者が居るではないかっ!
そうと決まれば、そちらの薄緑のお嬢さんに是非とも実戦性教い……ゲフンゲフン、受粉について手取り足取りご指導願おうか。モサモサ……
だがしかし焦ってはいけない。性急に事を進めようとして拒絶されてみろ、俺のようなしがない草なんぞあっという間に萎れ枯れ果てることだろう。モッサモッサ……
そう、なにも今すぐ知る必要はないのだ。だが気づかぬ内にウッカリ受粉させてしまう可能性も無きにしもあらず。それは草紳士として避けねばならぬのだが、なにせ無知だからな! モッシャモッシャ……
そのようなことにならないよう俺は知らねばならぬっ! だからそのためにもこの同族の女性にお近づきにならねばっ!! モッゴモッゴ……
むっ? しまった、つい興奮してしまい大量の草を食んでいたか……。モッシャモッシャ……
とにかく焦らず冷静にだ、まずは穏やかに対応しろ俺。草が感情を露にするか? いいやしないね。モッサモッサ……
草は常にあるがままを受け入れ生きるクールな奴らなんだ、まずは同族の草の者として彼女に受け入れてもらえるように心がけよう。モサモサ……
よし、まずは落ち着くために……とりあえず草、食べよっか。モサモサ……あれ? なにも変わってなくない? まいっか。モサモサ……
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